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 水吸筒と、専用の水筒、干し肉などの非常食と、地図を買って、私達は町を出た。

 まだお昼ちょっと過ぎだったので、夜までには別の町へ行けるとのことで、町を出る事になったのだ。

 地図で観ると、あの町は樹枝海(きえい)という小さな町で、美章側に面した海沿いの町だった。

 しかし、樹枝海から船は出ていないから、大きな町に行かなければならなかった。
 だから私達は、永の主要都市で、瞑と向かい合っている町、所陽(しょよう)へ向う。
 向かい合っていると言っても、陸から見える距離にあるわけじゃないらしいけど。

 幸い樹枝海から所陽へは街道が続いているので、道に迷う心配はなさそう。
 騎乗翼竜に乗って渡れないものかと思ったけど、永には翼竜がいないんだそうだ。
 輸入をしてはいるものの、軍用で、一般人はまず手に入らないらしい。

 斜め前を歩いている風間さんをチラリと仰ぎ見る。
 荷物は殆ど、風間さんが風呂敷に包んで背中に背負いつけている。
 私は自分の服や靴を風呂敷に包んで背負っていた。
 
 なんだか悪い気がしたけど、私も他に持ちましょうか? と訊いたら、いえ大丈夫ですよと、微笑み返されてしまったのだ。

 だから、風間さんに任せているんだけど、やっぱりちょっと申し訳ない。
 水吸筒は二つ分だから、四リットルを背負って、食料もあるわけで……。
 
 しかし……相変わらず、風間さんは、風間さんのままだ。
 相変わらずさわやかで、相変わらず微笑を湛えていて。
 あの意外な一面も、不機嫌なようすもない。

 ほっとしたような、残念なような気持ちで、私はもう一度風間さんを窺い見た。
 風間さんの意外な一面が見れたのは嬉しかったけど、風間さんは何だか嫌だったみたいだし。
 ぎくしゃくするくらいなら、いつも通りの方がいいのかな。

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