もにゅもにゅと、おにぎりを頬張る。
ああ、懐かしいなぁ。すっごく美味しい。海苔の香り、米の香り、程よい塩気――。なんか、お母さんに逢いたくなっちゃった。
「お嬢さん方はどこの国の人かな?」
「え?」
ギクリとして、思わず変な声が出た。
太ももの辺りがモゾリと素早く動いて、風間さんがお爺さんを仰ぎ見たのを感じた。
「ええっと……」
日本を思い出してたから、永ですよって言うには間が空きすぎた。マズイ。変に思われたかも。
「わしはね、元々倭和の人間なんだよ」
「へ?」
意外な言葉に目をぱちくりとする。
お爺さんは、感慨深そうに頷いた。
「この食べ物は倭和の物なんだよ。だから、大抵誰かに見せると、一様に食べれるのかって怪訝な顔をされるんだよ。この、黒い海草を見てね」
ああ、そうなんだ。たしかに、初めて見る人は戸惑うかも。
「お嬢さんは、なんだか懐かしがっているようなようすだったからね。てっきり同郷なんじゃないかと思ってね」
(あ~、なるほど。そういうことね)
私はほっと胸をなでおろした。
ふと見ると、風間さんの表情が曇っているような気がした。まだ、具合悪いのだろうか。やっぱり船酔いは船から下りないと治んないのかな。
「私は、倭和の人間じゃないんですけど、倭和にいたことがあって」
「そうなのかい?」
「はい」
嘘ではない。と、自分に言い訳する。
そこでおにぎりは出なかったけど、いたことがあるのは本当だもん。一ヶ月だけだけど。
「そうか……昔と変わらないじゃろうか」
お爺さんは遠い目をする。
「倭和では――」
突然の声にちょっとびっくりして、声の方を見る。風間さんが、辛そうに腕をおでこに置いていた。
「倭和では、旅行程度なら何の問題もありませんが、他国に住むことを極端に制限していますよね。どうしてお出になられたのですか?」
腕を下ろして、訝る目線を送る。
「もっと言えば、禁止に近いはず……ですよね?」
お爺さんは少し困った顔をした。
「昔……犯罪を犯してね」
「え?」
苦笑したお爺さんは、悲しげに遠い目をする。



