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 良いですと、遠慮する風間さんを無理やり寝転がして、投げ出した足に風間さんの頭を置いた。
いわゆる膝枕だ。
 人の頭は案外重いもんだなぁと、暢気に思いながら、私は水吸筒を取り出して、風間さんの額に当てた。
 少しだけ風間さんの表情が和らぐ。

 お腹を擦ると、胃の部分が少し硬くなっていた。
 吐きすぎて萎縮しているみたいだ。

「――ちょ、ちょっと!」

 風間さんが小さく驚いた声を上げた。
 頬が赤く染まる。

(あら、まあ……可愛い)

 思わず頬がにんまりする。
 それを見て、風間さんは眉根を寄せた。明らかに不快そうだ。

「良いですから!」

 語気を強めて言って、起き上がろうとする。でも風間さんはコロンと転がって、私の膝の上に戻ってきた。
 お爺さんが、ぺちんと風間さんの額を小突いたのだ。
 その反動で、風間さんが戻ったというわけ。

「――な」

 何か言おうとする風間さんに、お爺さんは水筒を渡して黙らせた。

「それは、君達に差し上げる。中には水吸筒が入っておるから、そこに吐けば良い。臭いも閉じ込めてくれるし、除菌もしてくれる。いっぱいになったらトイレの洗面所で洗うと良い。それなら、寝ながらでも吐けるからいちいち走って行かんでも良いじゃろ」

(わあ、良い人!)

「ありがとうございます」

 頭を下げた私に、お爺さんは遠慮したように小さく手を振った。

「水吸筒って、そんな使い方も出来るんですね」
「そうじゃよ。永の船乗りの間では常識じゃな。まあ、もっともコレを使うのは若造のときだけじゃが」
「あはは、若造ですか」
「そうですね、私は若輩者ですから」

 風間さんが、にっこりと爽やかに笑う。

 本当は悔しいくせに。
 なんだか、無性におかしい。
 風間さんが、可愛く見える。
 お爺さんは私の隣に腰を下ろした。

「お嬢さん、お昼はまだかね?」
「あ、はい。そうですね、そういえば」

 今、何時だろ?

「今何時なんでしょうか?」
「今は、魚刻(十一時)過ぎくらいじゃな」
「ああ、もうそんなに経ったんですね」
「うむ。少し速いが、わしとどうかね?」

 お爺さんは、尋ねながら笹の葉で包まれたものを私に渡した。開いてみると、懐かしいものがそこに。
 日本人のソウルフード、おにぎりっ!

「良いんですか?」
「うむ。良いとも」
「わあ、ありがとうございます!」

 四つあるうちの一つを頂く。手前のを取った。
 ちらりと風間さんを窺う。風間さんは当然ながら食べられそうにない。ちょっと、遠慮しちゃうなぁ。

「遠慮しないで食べなさい」

 びっくりして、目を丸くしてしまった。
 風間さんが目を閉じながらそう言ったから。以心伝心? 顔を見なくても伝わっちゃうシンパシー? 私は内心で湧き上がる嬉しさを堪えて、わざと生意気に返した。

「はぁい」