そうか。
 私、本当はどっかですごく不安だったんだ。
 魔王とか、願いを叶える道具としか見られてないとか、好意は抱かれてないとか、むしろ、本当は嫌われてるんじゃないかとか……。
 足手まといと思われてるんじゃないかって。

 不安や疑心がずっと心にあった。
 でも、そうじゃないって思いたかったし、言って欲しかった。

「お嬢さん。思いは言わねば伝わらないし、相手も言う気にはならんもんじゃよ」

 お爺さんは、優しい瞳でそう告げて客室の中へと入っていった。私は風間さんを振り返る。風間さんは青白い顔で、でもどこかすっきりとした顔つきをしていた。

「……似たもの同士ですか。言い得て妙ですね。私がゆり様を見ていて嫌な感じがしていたのは、私に似ていたからだったんですね」
「……へ? え、嫌?」

 え? 嫌なの? 嫌だったの!?
 ショックなんですけどっ!
 風間さんが自嘲するように笑う。

「いえ、違いますよ。嫌ではありません。な、感じです」
「それって、嫌な感じってことじゃないですかぁ!」

 もう泣くよ?
 本当。

「いえ、嫌ではなく……なんていうんでしょうね。モヤモヤと言いますか。うん、モヤモヤが適切ですね」

 モヤモヤ……ね。
 ……さっぱりわからん。
 不意に、風間さんが真面目な顔をした。

「でもゆり様は、確かに私に似たところはあるのかも知れませんが、貴女はどちらかというと、雪村様に似てますよ」
 
 ふっと、やわらかく笑む。
(私が雪村くんに似てる? それは、嬉しいような。嬉しくないような……。微妙だわ)

「……うっ」

 突然、風間さんがまた口を抑えた。海に向って身を乗りだす。嘔吐しだした風間さんの背を、今度は遠慮せずに擦った。

 すると、風間さんは少しだけ驚いて、口の端を汚しながら、恥ずかしそうに、バツが悪そうに笑った。

 愛想笑いではなかった。
 私の心はそれだけで、十分に満たされたのだ。