「東條がいないなら、しかたない」
ろくは小さく呟いて、一同を見据えた。
「お前ら使えないから、ぼくが総指揮をとる。文句は言わせない」
一同は驚いて、目を見開いた。
唖然とした沈黙が流れかけたが、そこに空気を破る哄笑が上がった。
「アーハッハッハ! 貴様のような小僧に何が出来る!?」
赤井はさも可笑しいと言うように、ゲラゲラと笑い転げた。
ろくは赤井の腕を離した。
「アンタらに勝てるよ」
小馬鹿にした様子だったのなら、まだ可愛げもあったが、ろくの真剣な声音に赤井はおろか他の者も怒りに湧いた。
こんな小僧に、我々が負けるものか! 殺気立った一同の中にいて、スキンヘッドの男だけは顛末を見届けるように、腕を組んで片眉を上げた。
「馬鹿にするなよ、小僧!」
赤井が怒気を発し、腰から剣を抜く。
そのままろくに向って、振り下ろした。
ろくの後ろで、兵士が小さく悲鳴を上げて、硬く目を閉じた。
兵士は子供が切られるさまを見たくはなかったのだ。が、そっと瞳を開けた時、彼は自分の目を疑った。
赤井の鎧を、何かが貫通した痕があり、無数の紅く、丸い物体が空中に浮いていた。一同を包囲するように浮く、丸い物は自分にも向けられている。
兵士は何が何やら理解が出来なかった。
目をぱちくりさせていると、丸い物体が伸びるのが見えた。
その瞬間、丸い物体は鋭い槍に姿を変えたように、兵士の鎧を突き破った。しかし兵士が驚いたのはその事ではなかった。
紅い物体が、自分の体を傷つけることなく貫通した事だ。つまりは、鎧と肌の間を縫って、貫通した事になる。
彼だけではなく、皆同じようにそうされていた。
――恐ろしい。
彼は打ち震えたが、逃げ出そうにも足腰に力が入らない。
目を見開くばかりの彼らに、ろくは静かに告げた。
「文句はないね?」
「大有りだな!」
声を上げたのは、スキンヘッドの男だった。
ろくは鬱陶しそうに彼を見た。
「なんで?」
「なんで? そんなの決まってるだろ。強いからと言って、指揮官に向いているわけじゃない。むしろそういう奴は戦場にいてくれた方が助かるし、実力も発揮できるってもんだろ?」
この言葉は、自身にも言えることであった。
彼は斥候隊の隊長を長年務めあげてきた男だった。
諸事情により、今は関の官職に就いているが、自分にはつくづく向かないと思い知らされているところだったのだ。
「大丈夫。ぼくは指揮もちゃんと出来るから。天才だからね」
男は眉を顰めた。
自分を天才だなんて言う奴は、ろくなもんじゃない。



