私の中におっさん(魔王)がいる。~黒田の章~


「――地竜隊、突撃!」
『――ブオオ!』

 号令のすぐ後に、角笛が重低音を辺り一帯に響かせた。
 まるで、本物の竜の鳴き声のようだ。
 
 獣のように叫びながら、喰鳥竜隊が走り出した。後を追うように、四足竜が重低音を響かせながら駆ける。

「――地竜隊、かかれ!」

 美章軍が飛び出すのを見計らって、功歩軍に号令が飛ぶ。同じようにドラゴンの角笛が鳴いた。
 大きな地鳴りが響き、両群は見裂ヶ原の中央でぶつかった。

 おびただしい数の人の怒声、奇声、悲鳴が、大気に湧く。
 ろくは静かに目を閉じた。

 次は自分の番だ。敵を、風使いを、どうやって穿ってやろう。
 ろくは静かにイメージする。敵を殲滅する、その姿を。

 そこに、歯が擦れ合う音が響く。
 静かに目を開くと、先程の弱音を吐いた青年兵が密かに震えていた。

(……情けない)
 心の内で青年を疎んだが、そこに号令がかかった。

「歩兵隊、突撃!」
「おおっ!」

 ろくは駆け出した。
 青年兵が足をもつれさせ、転びそうになっていたが、彼はそれを、寸でのところで踏み止めた。

 ここで転べば、後続者に踏み潰されてしまうからだ。
 ろくは彼を内心で小馬鹿にしながら、両手首を一周させて前方に押し出した。

 手首から紅い玉が、複数個飛び出していく。
 ビュン――と、風を切って飛んで行くのを見届けて、ろくは後続者にぶつからないように注意しながら、駆けるのを緩めた。
 やがて、完全に停止する。

 後続者がろくを追い抜いて戦場に身を投じる中、ろくは遠く離れた戦場を見渡した。その距離、約百メートルといった所だろうか。
 後続者がいなくなり、目の前には血しぶきを上げる戦場だけが広がる。

「さあて、ヤろうかな」

 ぺろりと唇を舐めて、ろくは構えた。
 手首を前方に押し出した形で、腰をかがめる。

 小指と薬指を動かすと、砂煙の中で何かが動いた。それは、ろくの小さな丸い血液だった。先程飛んで行った、紅い玉だ。

 紅球は、ビュンと、縦に伸び、まるでビームのように、美章兵に襲いかかろうとしていた功歩兵を貫いた。
 ある者は胸に、ある者は腕に、ある者は腿に。

 攻撃を受けた兵は苦痛に顔を歪めて、一様に攻撃もとを探す素振りをしたが、次の瞬間悲鳴を上げて傷を負った部位を押さえ始めた。

 しかし、抵抗むなしく、傷口からおびただしい血が溢れ出る。
 混乱して、慄いている間に、功歩兵は全ての血を抜かれて、青白くなって絶命していった。

 ろくは功歩兵から抜き出した血液を操って、次々に功歩兵を貫いて回った。
 その度に、血液を抜き取り、操り、武器を増やしていく。

 そこへ、空を切って風が届いた。

 咄嗟に目を庇うと、手甲が甲高い音を発した。
 剣と剣を交えたような音に、ろくは直感した。
 風使いのカマイタチだ。

「よう! 美章兵。好き勝手やってくれてんじゃないのぉ?」

 動乱の中から、男がゆっくりと歩み出てくる。
 紅い鎧を身に纏い、剣を片手に持った男は、喰鳥竜に乗り、ろくの十メートル手前で止った。

(出て来た!)

 ろくは心の中で奮えた。