* * *

 集合場所は、軍の基地だった。
 てっきりお城の訓練場かと思ったんだけど、民間人を城の敷地内に入れるわけには行かないらしく、町を出た森の中の基地へ集まる。

 集まった人数は二十人くらい。
 全員が男性だった。
 女の子はいないだろうとは思ってたけど、中年女性くらいならいると思ってたから、なんだか不安。

 その森は、私とクロちゃんが目覚めた森だった。
 門の前で給仕をする人が集まり、一緒に基地へ移動した。
 案内人がいなかったら、絶対に迷う道なき道を進んで、森の開けた場所に、水掘に囲まれた基地があった。
 基地というよりは、要塞という感じだ。

 水掘に囲まれた基地には、橋が一本しかなく、石垣の塀が基地内部を囲む。高さのある塀なので、中がどうなっているかはよく分からない。基地の一番高い屋根がぴょんと一つ顔を出しているくらいだ。
 
 案内人に話を聞いたところ、凛章のお城も城砦の役割があるけど、万が一のため民間人や、王族が避難できるようにと造られた基地でもあるのだそうだ。

 門番に挨拶をしながら、基地の中へと入る。
 周辺を囲むように回路があって、その中心に大きな要塞が建っている。

 私達はその前で待つようにと言われた。
 どうやら、建物の中には入れないらしい。
 ちょっと残念だけど、中には多分クロちゃんがいるだろうから、出てくる前にローブのフードを被った。

 ローブは昨日公務奉へ行った帰りに買ってきた。なるべく地味で、目立たない物を買った。ちなみに、男の子に見えるように男物の服を一緒に買った。
 暫く待っていると、見知った顔が現れた。

「やあ、やあ、キミ達が給仕担当の民間人かい?」
(ゲ。赤井さんだ!)

 私は慌ててフードを深く引っ張る。
 赤井さんの後ろには、帆蔵さんもいた。

「ふ~ん……」

 赤井さんは、それぞれの顔を眺めていく。
 まるで品定めされてるみたいで、気分が悪い。

「なんだ、女の子はいないのかぁ……」

 残念――と、赤井さんはため息をついて、踵を返した。
 その後を、帆蔵さんが呆れたようすでついて行った。

「なんだったんだ?」
「さあ?」

 ざわざわと声が上がる中、重厚な音を立てて基地の扉が開かれた。

「お集まり頂きありがとうございます。私は軍事を司ります才生(さいしょう)と申します」

 才生と名乗った御仁は、初老の男性で白い顎鬚を蓄えていた。
 優しい顔つきだけど、体つきはやはり軍人と言うべきか、がっしりとしている。

 その両隣には、またもや見知った顔が……。右側には空さん。左側には丹菜さんが立っていた。
 家に来た時とは違い、二人とも引き締まった厳格な表情をしている。

(全然違う……)

 ピリッとした緊張感が漂った気がした。
 私はバレないように俯く。

「指揮をとるのは、黒田三関になります。兵は全部で二百になりますので、皆さんには二百人分の給仕をしてもらうことになります」
「ちょっと良いですか?」

 声を上げたのは、私の隣にいた男性だった。
 好奇心旺盛といったように目を輝かせる。

「三関ってもっと多い数動かせるんでしょ? なんでこんなに少ない数の軍を任されたんですか? やっぱり、黒田三関って、あの英雄のことですか?」

 矢継ぎ早に質問しては目を輝かせる男性。

(ここにも、クロちゃんのファンがいたか……)

 七々さんに聞いた話だと、クロちゃんのファンは多いらしい。
 生ける伝説レベルだそうだ。

(ただ、白星であることを知るものは少ないらしいけど)

 白星という言葉が浮かぶと、胸が悪くなる思いがする。
 もともとの意味を思えば、本来ならば、誇るべき言葉なのに。

「黒田三関が貴方が言う人物かどうかは分かりかねますな。ただ、黒田三関は優秀な人間なので、任をまかされたとだけ言っておきましょう。貴方方が思っているほど、盗賊団は弱くはないのです。その数は分かっているだけで、百五十を超え、その四割が能力者だという報告が上がっています。貴方方も、危険がないとは言い切れません。浮かれた気分で任に就くのなら、ここでお帰り願いますよ」

 柔和な表情とは裏腹に、ピリッとしたきつい口調だった。
 男性はたじろいだみたいで、その後は押し黙った。

(……私も、ちょっと早まったかなぁ……)

 『浮かれた気分で任に就くな』か……。

 浮かれた気分ではないものの、不純な動機であることは間違いないわけで。
 私自身にも投げられた言葉のようで、胸の辺りが罪悪感でざわついた。
 しかし、もう戻る事はできない。
 私はやる。

 やり遂げてみせる!

 なぁに、二百人もいるんだったら、そう簡単に見つかりっこないって!