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集合場所は、軍の基地だった。
てっきりお城の訓練場かと思ったんだけど、民間人を城の敷地内に入れるわけには行かないらしく、町を出た森の中の基地へ集まる。
集まった人数は二十人くらい。
全員が男性だった。
女の子はいないだろうとは思ってたけど、中年女性くらいならいると思ってたから、なんだか不安。
その森は、私とクロちゃんが目覚めた森だった。
門の前で給仕をする人が集まり、一緒に基地へ移動した。
案内人がいなかったら、絶対に迷う道なき道を進んで、森の開けた場所に、水掘に囲まれた基地があった。
基地というよりは、要塞という感じだ。
水掘に囲まれた基地には、橋が一本しかなく、石垣の塀が基地内部を囲む。高さのある塀なので、中がどうなっているかはよく分からない。基地の一番高い屋根がぴょんと一つ顔を出しているくらいだ。
案内人に話を聞いたところ、凛章のお城も城砦の役割があるけど、万が一のため民間人や、王族が避難できるようにと造られた基地でもあるのだそうだ。
門番に挨拶をしながら、基地の中へと入る。
周辺を囲むように回路があって、その中心に大きな要塞が建っている。
私達はその前で待つようにと言われた。
どうやら、建物の中には入れないらしい。
ちょっと残念だけど、中には多分クロちゃんがいるだろうから、出てくる前にローブのフードを被った。
ローブは昨日公務奉へ行った帰りに買ってきた。なるべく地味で、目立たない物を買った。ちなみに、男の子に見えるように男物の服を一緒に買った。
暫く待っていると、見知った顔が現れた。
「やあ、やあ、キミ達が給仕担当の民間人かい?」
(ゲ。赤井さんだ!)
私は慌ててフードを深く引っ張る。
赤井さんの後ろには、帆蔵さんもいた。
「ふ~ん……」
赤井さんは、それぞれの顔を眺めていく。
まるで品定めされてるみたいで、気分が悪い。
「なんだ、女の子はいないのかぁ……」
残念――と、赤井さんはため息をついて、踵を返した。
その後を、帆蔵さんが呆れたようすでついて行った。
「なんだったんだ?」
「さあ?」
ざわざわと声が上がる中、重厚な音を立てて基地の扉が開かれた。
「お集まり頂きありがとうございます。私は軍事を司ります才生(さいしょう)と申します」
才生と名乗った御仁は、初老の男性で白い顎鬚を蓄えていた。
優しい顔つきだけど、体つきはやはり軍人と言うべきか、がっしりとしている。
その両隣には、またもや見知った顔が……。右側には空さん。左側には丹菜さんが立っていた。
家に来た時とは違い、二人とも引き締まった厳格な表情をしている。
(全然違う……)
ピリッとした緊張感が漂った気がした。
私はバレないように俯く。
「指揮をとるのは、黒田三関になります。兵は全部で二百になりますので、皆さんには二百人分の給仕をしてもらうことになります」
「ちょっと良いですか?」
声を上げたのは、私の隣にいた男性だった。
好奇心旺盛といったように目を輝かせる。
「三関ってもっと多い数動かせるんでしょ? なんでこんなに少ない数の軍を任されたんですか? やっぱり、黒田三関って、あの英雄のことですか?」
矢継ぎ早に質問しては目を輝かせる男性。
(ここにも、クロちゃんのファンがいたか……)
七々さんに聞いた話だと、クロちゃんのファンは多いらしい。
生ける伝説レベルだそうだ。
(ただ、白星であることを知るものは少ないらしいけど)
白星という言葉が浮かぶと、胸が悪くなる思いがする。
もともとの意味を思えば、本来ならば、誇るべき言葉なのに。
「黒田三関が貴方が言う人物かどうかは分かりかねますな。ただ、黒田三関は優秀な人間なので、任をまかされたとだけ言っておきましょう。貴方方が思っているほど、盗賊団は弱くはないのです。その数は分かっているだけで、百五十を超え、その四割が能力者だという報告が上がっています。貴方方も、危険がないとは言い切れません。浮かれた気分で任に就くのなら、ここでお帰り願いますよ」
柔和な表情とは裏腹に、ピリッとしたきつい口調だった。
男性はたじろいだみたいで、その後は押し黙った。
(……私も、ちょっと早まったかなぁ……)
『浮かれた気分で任に就くな』か……。
浮かれた気分ではないものの、不純な動機であることは間違いないわけで。
私自身にも投げられた言葉のようで、胸の辺りが罪悪感でざわついた。
しかし、もう戻る事はできない。
私はやる。
やり遂げてみせる!
なぁに、二百人もいるんだったら、そう簡単に見つかりっこないって!



