* * *

「行ってくるね」
「うん」
「戸締りちゃんとするんだよ。ナンパされても着いて行っちゃダメだからね」
「もう。戸締りもちゃんとするし、ナンパなんて着いていかないよ!」
「うん……そこは、信じてるよ」

 クロちゃんは、名残惜しそうに私を見つめる。
 私だって、名残惜しい。

 クロちゃんには内緒で着いていくわけだから。
 なるべくばれないようにしなくっちゃいけないわけで……長旅だからそのうち見つかっちゃうとは思うんだけど。

 見つかった時に嫌われないか不安ではあるけど、やると決めたからには、覚悟を持っていかなければ! ――と、そこへ突然、硬い腕に包まれた。
 ぎゅっと、胸板が押し付けられる。

「行ってきます」

 耳元で、切ない声でクロちゃんが囁いた。
 私はドキドキを隠すのが精一杯で、いってっしゃい――と、出した声がか細くなった。

 クロちゃんは、少しだけ寂しそうにして家を出て行った。
 私の胸は、ときめきと、罪悪感が入り混じっていた。
 だけど、もう後には引けない。

 私は、自分の頬を軽くはたいて、気合を入れた。

「よし! 行くぞ!」