* * *

「あのさ」
「うん?」

 部下の皆さんが帰った後、後片付けをしているとクロちゃんに声をかけられた。と、言っても大して片す物はないんだけど。

 せいぜいお酒の瓶とかコップとかくらいだ。
 何か作ろうかって言ったら、

『あいつらにわざわざキミの手料理を食べさせる必要なんてないよ』
 って、ムッとした顔で言われちゃって! 嫉妬されるって幸せ!

「ねえ、ちょっと聞いてる?」
「え、ああ。ごめん、ごめん!」
「……顔にやついてたけど、なに考えてたの?」

 意地悪な目をして、クロちゃんが私の顔を覗き込んだ。

「別にぃ。なんでもないですよ?」

 すまし顔で言おうと思ったのに、頬がデレるのを感じた。
 それを見て、クロちゃんが「ふふっ」と含み笑いする。

「そう?」
 と、優しく笑った。

「ぼく、明後日から遠征で家、留守にするから」
「……え?」

「どれくらいかかるかは分からないんだけど、早ければ二週間で帰るし、遅くても一ヶ月で帰るよ。まあ、遅くなる事はないと思うけどね」

 頭が真っ白になった。
 クロちゃんがいない生活なんて、初めてだよ。
 だけど、クロちゃんは仕事で行くわけだから……。
 寂しいけど、我慢しなくちゃ。

「危険はないの?」
「ん~……? ぼくは大丈夫だと思うけど」

 曖昧に言って、首を捻る。
 心配だなぁ。

「遠征って何しに行くの?」
「盗賊の討伐だよ。燕秋(えんしゅう)っていう国境付近の土地に最近、哭抑党(こくよくとう)っていう盗賊団が根城を造って、隣村を襲ったりしてるんだよ」

 盗賊の討伐かぁ……。
 クロちゃんは強いんだとは思うけど……大丈夫かなぁ?

「気をつけてね。ケガとかしないようにしてね」

 私は心配で、クロちゃんの腕を掴んだ。
 クロちゃんは、フードを軽く引っ張って口元を緩めた。

「……うん」