「私の気持ちはクロちゃんには迷惑なのかも知れない。望まないことなのかもしれない。だけど、私の気持ちを知っていて欲しい。私は、同情でも、友情でもなく――クロちゃんが――」
「それ以上言わないで」

 強い口調に、はっと息を呑んだ。

「そっか……」

 小さく呟く。

(そっか、失恋決定か……)

 俯いた私の首に、何かがかかった。
 胸に、黄色い石が光る。

「これって……!」

 福護石だ。

 ぱっと仰ぎ見ると、彼と目が合った。
 ばつが悪そうな顔をして、節目がちにする。

「それ以上言われたら、ぼくの面子なくなるじゃん」
「え?」

 クロちゃんは、大きく息を吐き出して、私に向き直った。

「ぼくは、翼や毛利がキミの名前呼んでると、すっげえイヤで。ぼくが呼べないのに、なんでお前らが呼ぶんだって、ずっと思ってた」

 少しだけ、彼の手が震えてるのがわかった。
 クロちゃんが自分の手を取って、握る。
 震えを止めようとしてるみたいだ。

「ぼく、ぼくは……キミに屋敷で、気を張りすぎないでって言われた時、すごく嬉しかったんだよ」

 息苦しそうに、クロちゃんは大きく息を吸った。

「ぼくは……キミが好きだ」

 頭が真っ白になる。
 今――。

「多分、屋敷でキミにあの言葉を言われた時から、好きだった」

 クロちゃんの頬が見る見る赤く染まる。
 フードを引っ張ろうとした手を、取った。

「名前で、呼んで?」
「……!」

 クロちゃんは無言で驚いて、慌てて反対側の手でフードを目深に引っ張る。
 多分、今、彼の顔は耳まで真っ赤なはずだ。
 私はそれがどうしても見たくなって、どうにも愛しくて、フードをそっと剥いだ。
「……!」

 彼の緑の目が、驚いて見開かれる。
 カアアッと、紅潮された頬に、白い耳が赤く染まる。
 さらさらとした金色の前髪が、澄んだ緑の目に薄くかかかった。

「名前で、呼んで欲しいな」

 もう一度私がねだると、彼は口をきゅっと結んだ。
 ごくりと喉が鳴る。

「ゆ、ゆり……」

 小さく、小さく、震える声で出された私の名前。
 彼の胸が、大きく打っていた。
 緊張が伝わってきたけど、少しだけ意地悪がしてみたくなった。

「もう一度、もっと大きな声で言って?」
「……ゆり」
「もっと大きな声で」
「ゆり! もう良いだろ!?」

 クロちゃんが照れて、フードを被りなおした。
 私は妙に嬉しくて、嬉しくて、たまらなくて。
 思わず抱きついてしまった。

「うわ!」

 元々上半身だけ起き上がってたクロちゃんは、私のタックルを受け止めきれずに、私達はベットに倒れこんだ。
 間近にある、クロちゃんの瞳。
 動揺する眼差し。
 私達は見つめあった。

「私、クロちゃんが嫌がるって分かってるけど、クロちゃんの瞳好きだな」
「え?」
「さらさら、キラキラした金色の髪も好き。透き通るような肌も、羨ましい」

 クロちゃんは少しだけ驚いて、きまり悪そうに目線を下に動かした。
 やがて、ふんと鼻を鳴らして、

「自分が嫌いだと思ってるところを褒められて、嬉しい人間なんているわけないだろ?」
 と、にやりと笑った。
 いつもの、生意気顔で。

 私はくすっと笑って、そして何がおかしかったのか、二人で笑い転げた。
 これで本当に、仲直りだ。