「傷つけたことは謝る。ごめん! ――だけど、許して欲しいってだけで行動したわけじゃない!」
「は?」
「見ないふりなんて出来ない。私、クロちゃんが好きだから!」
「……へ?」
クロちゃんの呆然とした顔を見据えながら、私は覚悟を決めた。
もう怖くない。
嫌われることを恐れない。
ぶっちゃけ、やけっぱち。
「クロちゃんは、自分がどんなにすてきな人に囲まれてるか知らないのよ。ううん。信じてないの」
私はできる限り、バカにしたように言った。
クロちゃんはカチンとしたのか、「はあ!?」と、返した。
「部下の人達は、クロちゃんのこと白星だなんて思ってないし、七々さんだって、クロちゃんの大ファンでクロちゃんの戦績から何から調べて知ってたし、女王様だってクロちゃんのこと認めてる。翼さんはいつもクロちゃんを大切に思って、見ていてくれてる。これだけ、あなたを好きでいてくれる人がいるのに、その気持ちを信じられないなんて、ただの臆病者じゃない!」
クロちゃんは私の手を振り解いた。
「そんなのただ迷惑なだけだ! ぼくが望んだわけじゃない! 第一、キミに何が分かるんだよ!」
「何にも分からないわよ!」
怒鳴り返したら、クロちゃんは目をぱちくりさせて押し黙った。
本当の意味で私はクロちゃんを理解しているとは言えない。
私は誰かに蔑まれた事がない。
いじめは小学校でも中学でもあったけど、私はいじめの対象者になったことはない。
人に蔑まれた者がどんな気持ちになるかなんて、想像でしか分からない。
同じような経験をしたとしても、感じ方は人それぞれだ。
だから、聞きたい。
クロちゃんの口から、どんな風に感じて、どんな風に生きていたのか。
私に教えて欲しい。
私は静かに切り出す。
「ねえ、私が屋敷で言ったこと、覚えてる?」
クロちゃんの肩が僅かにぴくりと跳ね上がった。
「私に話して欲しい。私を頼って欲しい――あの気持ちは嘘じゃないよ。今もそう思うよ」
「……同情なんて、いらない」
「同情なんかじゃない!」
クロちゃんの吐き捨てるような言い方に、つい声高になる。
クロちゃんは私から目線を外そうとしたけど、私は決して目を離さない。
クロちゃんを諦めるつもりはない。