私は大きなため息をついて、空を見上げた。
 雲のない青い空が広がる。
 すっかり冬になってしまった。

 私は身震いしながら、白いコートのポケットに手を突っ込んだ。
 裾をぱっと広げて、思わずにんまりとしてしまう。
 このコートは、初任給で自分で買った。
 
 元の世界でバイトをしたことはなかったから、自分で稼いだお金で、自分が選らんだ物を買えるというのはなんだかとても嬉しい。

 本当は初任給でクロちゃんに何かプレゼントをと思ったんだけど、サプライズする前に要らないからねと釘を刺されてしまって買えなかったんだ。

(チェ。でも、そのうち何か良い物を見つけたらプレゼントしよう)

 それにしても、今日はやけに人通りが多い。私は辺りを見回した。いつも多い大通りだけど、今日は一段とガヤガヤしている。これじゃ、ぼーっとしてたらすぐに人にぶつかっちゃうよ。

「わっ!」

 思ったそばから軽い衝撃があって、よろけた。キョロキョロしていたら人にぶつかってしまったらしい。

「すみません」

 私は目の前にいる男性に頭を下げた。
 どっちも転んだりしたわけじゃないけど、今のは考え事をしていて避け損ねた私が悪いので、素直に謝る。

「いや、大丈夫だ」

 男性は、さわやかに笑うと手を小さく振った。
 見るからに高級そうなジャケットを着ている彼の横に、厳つい顔をした男がいた。頬に大きな傷がある。
 その男は私をギロリとにらんだ。

(怖っ)

「おいおい、帆蔵(ほんぞう)そんなに睨むなよ。怯えてるじゃないか。ねえ、お嬢さん?」
「あ、いえ……」

 図星をつかれて思わず苦笑する。
 ふと、顔の前に影が出来た。見上げると、高級そうなジャケットを着た彼が、私に顔を近づけている。
 長身なため、かなり屈んでいる。
 紫色の瞳を細めて笑った。

「うん。合格かな」

 無邪気な笑顔で、訳の分からない判定が下されて、私は思わず疑問符が出るところだったけど、その前に帆蔵と呼ばれた厳つい男が、彼の肩を掴んで腰を本来の位置に戻した。