* * *

 図書館に着くと、真っ先に『入国証について』という本を手に取った。
 入国証に、谷中という苗字が書かれていなかったのが気になったからだ。

 その本によると、苗字を名乗れるのは、それなりの地位にいる者でなければならないと書かれていた。
 それなりの地位とは、王族、貴族は当たり前として、将軍、三関、文官などの公的な任務についている者だそうだ。

 ただ、武官は三関以上の者にしか与えられないそう。
 国によって違いはあるそうだけど、大体は三関の地位についてから自分でつけるか、人につけてもらうかして名乗り、入国証も新しい名前で再発行するそうだ。

 発行は公務奉(こうむぶ)という国の施設があり、そこに入国証を持って行くのだそう。いわゆる役場だ。

 国によって違うけど、公務奉が町にしかないところもあり、村の人は町まで出向くことになるのだとか。
 ちなみに千葉が一番多く村に設置されているらしい。

 一通り読み終えて、本を元に戻した。

(よし、バイトを探しに行こう)

 大通りへ降りると雑貨屋さんや、食べ物屋などを覘いた。
 店のどこかに求人が出てないか、店内外をそれこそ嘗め回すように目を凝らしたけれど、どの店も求人広告は出ていない。
 その度に店員さんに、バイトを募集してないかと聞いて回ったけど、どこも撃沈だった。

「はあ……」

 十五軒ほどまわったところで、深いため息が出てしまった。
 断られるのって、結構きつい。

(どこかないかなぁ……)

「うっ!」
 低い音がお腹の中から鳴った。

「お腹へった……」
 ウロガンドをポケットから取り出す。

「げっ、もう午後二時じゃん」
 いつの間にかお昼をとっくに過ぎてる。そりゃ、お腹も鳴るよ。

「……シュシュルフランにでも行こう」
 
 ん?
 そうだ、シュシュルフラン! あそこって、いつも店長一人だけだし、もしかしたら雇ってくれるかも!
 私は期待を込めて駆け出した。