「ええっと……ここって?」
「どー見ても、美章国の凛章(りんしょう)だね」
「凛章?」
「王都だよ」
「王都!?」
すごい。王都なんて、初めて見た! ファンタジーでしか聞いたことのないワードだよ!あれ、でもちょっと待って?
「私達、倭和国にいたはずじゃ?」
大きなお寺とか神社とかにそっくりな屋敷にいたはず。もう倒壊しちゃったけど……。
「そうだ。私達、なんで殺されかけたの?」
魔王ってそんなに危険なの?
「クロちゃん。あの襲ってきた人達ってなんなの?」
「あれは、多分ニジョウの人間だよ」
「ニジョウ?」
オウム返しすると、クロちゃんはうんと頷いた。
「倭和の奥地に住んでる部族だよ。屋敷があったろ? あの周辺に住んでるって噂。特に東の森に居住を置く事が多いとか」
「へえ……」
「倭和じゃ、危険思想で行政のいう事もきかない問題児って有名。強いらしいから倭和の行政も迂闊に手を出せないんだってさ。ただ、独自の宗教だか信念だかを守りたいだけで、干渉したり領地に足を踏み入れない限り無害って、倭和の役人には聞いてたけどね。まあ、書面でだけど」
その宗教理念が、魔王を殺す事だったわけか……。
(他にもそういう思想の人達はいるのかな。私、帰るまで無事で居られるのかな?)
不安がむくむくと湧いてきた。
「でも、魔王を殺そうなんて変わった連中はあいつらくらいなもんだから、安心しなよ。それに、ここは美章だよ。やつらのいる倭和じゃない。やつらだって他国に干渉なんてできやしないし、第一魔王が誰かも分かってなかったろ? キミがここにいるなんて、誰もわかりゃしないよ。あの場に居た誰にもね」
最後の言葉は、含みのあるような言い方だった。
まだ、クロちゃんは私の中の魔王を諦めていないらしい。世界を破滅させようなんて考え、やめたら良いのに。
でも、クロちゃんのおかげで安心はした。少なくとも今は命を狙われる心配はないらしい。
ほっと息をつく私を横目に、クロちゃんは腕を組んで斜め上を見た。独り言のように呟く。
「帰る手間が省けたし、ぼくにとってはラッキーかな」
(え? 帰るって、もしかしてクロちゃんって王都に住んでる?)
「行こうか」
言ってクロちゃんは、私に手を差し出した。
私は頷いてその手を取った。