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 お昼は、昨日のお店シュシュルフランで食べたのだけど、その後長々と居座ってしまった。
 やっぱり、女子同士はお喋りに限る。

 楽しい時間を過ごしていると、あっという間に四時過ぎていた。
 随分長い間お店にいて、ご迷惑だったに違いないと、会計の時にぺこりと頭を下げると、あの店員さん(もしかすると、店長さんかも)は、にこりと笑ってくれた。
 営業スマイルだとしても、ほっとしてしまったりして。

 ドアが閉まると同時、背後から月鵬さんの静かな声音が届いた。

「谷中様、私と一緒に岐附に来るつもりはありませんか?」
「え?」

 その声からはどことなく強い意志が感じられて、私は目をぱちくりとさせた。
 そんな事、考えてもみなかった。
 月鵬さんと一緒だと、楽しい。女同士でしか出来ない話もあるし、女子同士のお喋りは、やっぱり楽しい。

 岐附というと、アニキもいるだろうし。
 アニキにまた会えるというのは、嬉しい気もする。
 ……だけど。

「ごめんなさい。私ここに残ります。それで、帰る道を探してみます」
「……そうですか」

 月鵬さんは、残念そうに笑った。
 月鵬さんの申し出はありがたいけど、クロちゃんと離れて行く気にはなれなかった。
 クロちゃんは計算高い子だし、生意気で、意地も悪いし、私を欺こうとしたこともあったけど、本当はそんなに悪い子じゃないと思うんだよね。

 なんだかんだで気を使ってくれるし、どことなく無理をしている時があるような気もするし。
だいいち世界を壊したいほど憎んでいるなんて、なんだか哀しいじゃない。

 世界を憎んでるクロちゃんの心を少しでも軽くさせることができれば良いなと思った。だって、なにかを憎んでいるのって、苦しいことだと思うんだ。

 月鵬さんとはお店で別れた。
 後で家に来るというので、一緒に帰れば良いのにと思ったけど、月鵬さんにも用事があるんだろう。
 私は、市で買い物を済ませて帰宅することにした。

 市は相変わらず賑やかで、色んな人が溢れかえっている。
 油断していると、お店の人に余計な物まで買わされたり、強引に引っ張っていかれて、品物を売りつけようとする人もいるから気をつけなくちゃ。
 月鵬さんには夕食は断られてしまったので、二人分のご飯を買う。今日は、お弁当にした。

 家に着くと、もうクロちゃんが帰っていた。
 私より早いなんて珍しい。

「ただいま。早かったんだね」
「うん。おかえり。ちょっとね」

 含む言い方をして笑う。

「ふ~ん?」

 首を傾げた時、トン、トンとノック音が玄関から聞こえた。

(月鵬さんがきたんだ!)

 私は玄関に駆けるとドアを開けた。