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 おしゃれな外観の白い木のドアを開けると、ちりん、と鈴が鳴った。
 お店の中は、カウンター席とテーブル席があり、通りに面して細長い窓が幾つかあって、店内は明るい印象だった。
 窓際に面した席はもうお客さんで埋まっている。テーブル席は空いてなさそう。

「いらっしゃいませ」

 カウンターの男性がにこりと愛想良く笑う。
 年齢は三十代くらいかな。この男性は、拭いていたグラスを置いた。

「空いている席へどうぞ」

 男性店員に促されて、私はカウンターの席へ座った。
 お客さんを見る限り、何か食べていたり、飲んでいたりするので飲食店ではあるみたいだ。

(良かった)

 ほっと一息つくと、カウンターから男性店員がメニューを差し出した。
 メニューには、シュシュルフランという文字の後、料理名や飲み物名が並ぶ。どうやらこのお店がシュシュルフランというらしい。

 馴染みのない名前ばかりで、メニュー名を見ただけでは、どんな料理かは分からない。
 この国なのか、凛章という町の特徴なのかはわからないけど、基本的に食べ物は私に馴染みがない。
 倭和で出たような和食風の物は、この国にはなかった。
 
 唯一ライ麦のようなパンと、クスクスに似た燐麦(りんばい)があるけど、クスクスも私に馴染みがあるわけじゃないし、ライ麦パンも元の世界では、一度くらいしか食べたことがなかった。
 この国の定番なのかは分からないけど、クロちゃんはこの燐麦を朝夕と食べているから主食なのだと思う。

 ちなみに私も食べてる。
 ライ麦のようなパンを、一度買ったことがあったけど、硬くて顎が疲れてしまったから、燐麦の方が好みだった。

「決まりましたか?」

 カウンター越しに声をかけられて、ちょっと焦る。
 私がメニューを見ている間にお客さんが増えていた。

 どうやら店員はこのカウンターの男性しかいないみたいで、回転スピードはあまり良くないみたいだ。
 お昼時の混雑する時に、グズグズと悩んで待たせるわけにもいかない。
 こういう時は、こう訊くのが一番だよね。

「おすすめってありますか?」

 男性店員は頷いて、カウンター越しに手を伸ばした。
 私のメニューを指差す。

「これ、ギルディサンドがおすすめ」

 言って、店員は茶目っ気たっぷりにウィンクした。
 明るい人だなぁ。

「じゃあ、それでお願いします」
「はいよ」

 出てきたのは、ライ麦パン風サンドウィッチだった。
 レタスのような葉野菜に、ひし形のトマトと思われる野菜。そして厚切りのローストビーフが挟まっている。

(肉は多分牛ではないだろうけど)

 パンか……また硬くて顎が疲れるのかなぁ……。
 鬱々としながら、サンドウィッチを頬張った。

(あれ? 歯ごたえはあるけど、硬くない。これなら大丈夫そう!)

 私はもぐもぐとサンドウィッチをほおばった。