* * *

(まったく……)

 彼女がこの場を去ったのを確認して、黒田は、捨てられたボロボロのマットレスの陰からひょいと出た。

 何故こんな時にやってくるのだろう。彼女には何らかの勘が備わっているに違いない。動物の勘的な、と黒田は感心半分、呆れ半分で思って一息ついた。
 
 もう一度、ゆりがいないか確認してから、黒田は薄暗い路地を進む。建物に陽光が遮られ、路地は徐々に暗くなっていった。
 ずっと、奥の突き当たり、闇の吹き溜まりのような場所で、低声で話す声が聞こえはじめる。

 覗き込むようにして、黒田は声の主達を窺い見た。
 そこに居たのは、以前取材目的で給仕に来ていた新聞記者の樹一と翼の姿だった。

(やっぱりね……)

 確信を持って、黒田は二人を見やった。