* * *

「……ゲホッ。……痛てぇ」
(……セキをして、ケツが痛むとは思わなかった。クソ……最悪だ)

 ぼくは、しばらくその場から動けなかった。
 全てが終わったら、奴を殺そうと心に決めていた。
 能力はまだ戻っていなかったし、蹴られた傷も痛んだけど、絶対にぶち殺してやると決めていた。
 なのに全てが終わって、手枷を外されても、ぼくは行動に移せなかった。
 思考が停止していて、意識が朦朧としていて、泣く事もなく、何も考えられず、それでもただ、奴を睨んだ。
 それしか出来なかった。

 姉ちゃんも、蓮も、こんな気持ちだったのかも知れない。
 あの女達も……。
 ぼくは、痛む体を起こして、膝を胸に引き寄せた。
 そのまま、ぼんやりと女達の死体を見つめた。
 やつは、不満足そうに去っていった。
 ぼくがいつまで経っても絶望の目を向けなかったから、不愉快だったんだろう。
 冗談じゃない。
 奴が望む事を誰がしてやるもんか!
 
 でも、本当は、とっくに心は折れていた。
 本当は、もう許してくれ、助けてくれと懇願してた、心の中では。
 だけど、あんな奴の言いなりになんか、なってやるもんか!

「うっ……ぐっ」

 ぼくは、嗚咽を堪えた。
 誰に見れられているわけじゃないけど、泣きたくなんかなかった。
 ぼくは、ぐっと目を見張って涙が流れるのを堪えた。

『ろく君が女の子じゃなくて残念だ。キミが女の子だったら、無理やりにでも連れ帰って毎日愛でるよ。キミが泣いて、懇願するまでな』

 最中に言われた奴の言葉が頭を巡った。
 体が震える。
 今更ながらに、恐怖が襲ってきた。
 ガチガチと歯が鳴る。
 ぼくは、自分の体を抱きしめた。

――泣いちゃダメだ!