* * *

 頭を蹴られたんだ――と、気づいたのは閉じられていた眼を開きながらだった。
 気分は最悪だ。吐き気がする。
 多分、蹴られた時に胃もやられたんだ。

「最悪だ……」

 ぽつりと呟いたぼくの声は、しわがれていてちゃんと言葉にならなかった。
 ぼんやりとした意識の中で、ぼくは遠くに転がっている白い物を見つけた。
 
 あれはなんだろう?
 まだ目の焦点が合わず、ぼんやりとしている。
 何回か目を瞬かせて、やっと気づいた。

――あれは死体だ。

 首から上がない。裸の女の死体が五つ。
 誰に言われなくても明白だった。
 あの、功歩の女達だ。
 女達の死体は、重なり合って無造作に山積みにされていた。
 さっきまで生きていたのにな……ぼくは、ぼんやりとそんな事を思った。
 そこに、

「起きたかい?」
「!」

 不意の声にぼくは振向いた。
 いや、振向こうとした。
 でも、できなかった。
 傷が痛んだせいもあったけど、ぼくは後ろ手に縛られていて、振向く事が困難だった。
 しかも、ぼくは衣服を何も見につけていなかった事に、そこで初めて気がついた。

(なんだ、どうなってる!? 頬当は――!?)

 ハッとした。
 肩に頬を当てて確かめてみると、頬当も取り外されている。
 混乱するぼくに、影がゆっくりと歩み寄ってきた。
 ぼくの眼の前で立ち止まり、膝をついた。

「やあ、ろく君」
「……赤井セイ」
「赤井セイ三関だろ?」
「……まだ、何か用なの?」
「ふむ……ろく君は、白星だったんだな」
「だからなに!? 殺すわけ?」
「ふむ……」

 ぞわっとした悪寒が背筋を走った。
 奴の指が、ぼくの太ももをなぞる。

――気色悪っ!