「……あれ?」

 どんなに血液を操ろうと思っても、何も出てこない。
 力が発動しない。

(どうしてだ!?)

「ハハハハ、アーハッハッハ!」

 赤井は高笑いをしながら、ぼくを侮辱した目で見据えた。

「どういうこ――ガッ!」

 言い終わらないうちに、ぼくは部下の男に蹴られてその場にうずくまった。

「パンチを避けちゃならんかったのだよ。ろく君。その者の手の中には、消者石(しょうしゃせき)という岩石の粉末が入っていたのだよ。それは元来透明でね。目では見えなかったろ?」

(それがなんだよ、もったいぶりやがって!)

 ぼくは心の中で悪態をつきながら、立ち上がった。
 もう一度、力を煉ってみる――が、やはり何も起きない。

「消者石は、能力者の能力を失わせる力があるんだよ。ろく君。残念ながら、一定時間だけどな。私のように能力を持たずに生まれた物は、こういう物がないと怖くて外もあるけんのだよ。ハハハッ!」
「見え透いたことを……」

 ぼくが睨み付けると、赤井はニヤッと、含み笑いをした。

「希少(レア)なんだぞ。存分に味わいたまえ」
「ふんっ! 能力が無くたって、ぼくがそう簡単にやられると思う?」

 ぼくはサバトンに仕込んだナイフを取り出した。
 部下の男に向って構える。
 東條と梓と連に鍛えられたんだ。
 こんな奴らに負けるか!

「思わないねえ……」

 赤井セイが含むように、低く呟いた時だった。
 ぼくの腕が微かに震えだし、眼の前が歪んだ。
 思わず肘を突く。

(なんだ、どうなってる? まさか……これは!)

「毒だよ」
「……毒?」

(やっぱりか……!)

「キミが能力のみに頼っている人間じゃない事くらい知っているさ。私の嫌がらせに完璧に答えてくれたキミだからな。さっきの消者石にはね、元々毒が仕込んであるのだよ。でも大丈夫、死にはしない。体が動かなくなるだけだ」
「クズが……!」

 大きな声で罵声を浴びせたかったけど、小さく呟くのがやっとだった。
 もう舌も上手く回らない。
 両手足が痺れて、もげそうだ。

「グガッ!――うげっ!」

 顔面に一発、そのすぐ後に腹に一発蹴りを入れられて、ぼくは地面に突っ伏した。
 男がぼくの眼の前に立ちはだかった。
 蹴りを入れるモーションをする。

「ぎゃっ――やめ、ガッ! ろっ!」

 動けないぼくに、男は何発か蹴りをぶち込んできた。

「ゲホッ、ゴホッ……アッ!」

 ヒュウ、ヒュウ、と呼吸音が乱れる。
 肺を蹴られたのか、呼吸が苦しい。

(クソが……痛てぇじゃねえか。絶対後で殺してやるっ!)

 ぼくは憎しみを込めて男を睨んだ。
 男はイラついたのか、軽く舌打ちをして、――ガツン!
 眼の前が真っ暗になった。