ぼくの勘があたれば、確かにそれは女達にしてみれば拷問だろう。
 だけどぼくはそんな事をしたことはない。
 功歩は女兵士制度を認めておらず、兵士は男だけだ。
 だから今までぼくは、功歩の男にしか遭遇した事はなかった。

 でも、そもそも、そんな事以前に、ぼくの選択肢の中に〝それ〟は存在しなかった。だが、赤井達には在ったようだ。
 赤井達は、女の服を乱暴に引き裂き始めた。
 女達は悲鳴を上げなら逃げようとし、羽交い絞めにされた。

「おい! 何やってんだ!」

 一歩踏み出して、ハッとした。

(今叫んだのは、ぼくか?)

 思わず頬が強張る。

 羽交い絞めにされている女達、女を押さえつけている赤井達の目線は間違いなくぼくに注がれている。
 紛れもなく、ぼくが叫んだみたいだ。
 ぼくはすぐに後悔した。

 放っておけば良かったんだ。鬼の女なんて。
 だけど、女達の顔が、お姉ちゃんと梓と蓮に見えたんだ。
 心底怯えて、誰か助けてくれって泣いているようだった。

「ろく君じゃないか。どうしたんだね?」
「いえ……三関が森に向うのが見えたので、お止めに。この辺りは敵陣でもありますゆえ、お戻りを」
「今、お楽しみ中だ」
 ……クズが。

「ですが、三関に何かありましたら、明日の戦に支障が出ますので」

 んなわけねえだろうが。
 さっさと、女離して去れ。この最低男が!

「大丈夫だ。そんなヘマはしないよ。それとも、キミも交ざるかね?」
凍った泉にヒビが入った時のような音が、頭の中で鳴った。
「んなこと、するわけねぇだろ! クズ野郎どもがっ! 良いからさっさと放せって言ってんだよ、わかんないの!? バカじゃねえの!?」

 気がつくと、ぼくは思い切り吠えていた。
 ぼくは元々気が長い方じゃない。
 もう、しょうがない。
 こうなったら、さっさと殺して敵の斥候の仕業だって事にしよう。
 息子がどうとか、もうどうでも良い。――と、今ならそう思う。
 
 奴が何か発する前に、さっさとその胸を貫いていただろう。
 でも、この時はまだ純粋だったのさ。
 人の善意ってものをどこかで信じていたし、美章の人間は、美章の男は、功歩の男のような愚かな真似はしない。
 しようとしても、すんでで止まる――そんなバカな期待をしていたんだ。
 人間は、しょせんどこに居ても人間だ。
 
 赤井は薄く笑んで、一人の部下を顎で指した。
 その男はぼくの前までゆっくりと歩いてくると、ぼくに殴りかかってきた。ぼくはするりと避けた。
 相手のパンチはかなりのノロマだった。
 そっちがその気ならしょうがない。ちょっと痛い目を見てもらうか――暢気にそんな事を思った時だ。