赤井セイは戦況が傾き、勝機が見えるとどこからともなくやってきて、それまで指揮をとっていた者を追い出し、指揮をとる。
そして手柄を全て自分の物とする。
そういうやり方をやつはどこでもやっていた。被害に遭うのは貴族出身ではない位の低い相手だ。やつはそういう奴が言い返せないのをよく理解していた。
ぼくも前に、一度やられた事があった。
ぼくは手柄なんて興味はなかったけど、より多くの功歩兵、ひいては功歩国を滅ぼすためには、大きな力が要る重要性を理解していた。
東條が亡くなってから、功歩への恨みの箍が外れたぼくは、さらなる殺戮を求めていた。だから、そのための道筋を奪われるのは癪に障った。だが、赤井セイのような人間を相手にする時、口で言い負かしても、後で何らかの報復がある。かといって、武力行使に出るわけにもいかない。
前線に出てくれているなら、事故死や戦死にも見せかけて始末しちゃえば話が早いのに、三関という立場がら、危険地帯に行く事は殆どない。
行く事を好む武将もいるが、赤井セイのような人間は、絶対に自ら前線に出ることはしないだろう。
だから、ぼくは仕方なく奴に手柄を渡した。
こういう奴を落とすには、自分がそいつより上の立場に行かなければ何を言ってもやってもまるで意味がない。
無能な上に陋劣な人間が権力を持つと、厄介でしょうがない。
まあ、大概の貴族なんてそんなもんだけどね。
「そうですね。じゃあ、お言葉に甘えさせていただきます」
ぼくは、今回もそう返事を返した。
でも、その事があの事態を招く事になるとは思ってもみなかった。
この時分かっていれば、赤井セイをこの場でぶっ殺してたね。



