* * *

「陸軍追撃! 空軍、森を包囲せよ!」
 青蹴が声高に叫び、陸軍が美章軍を追った。
 喰鳥竜軍の逃げる尻を捉える。

 森の出口で美章軍が出てくるのを待ち構えるべく、功歩空軍は空を駆けた。
 森の上空を通るころには、美章空軍の姿は小枝くらいの大きさになっていたが、彼らの使命は空軍を追撃する事ではない。

 大群が森を駆ける音を聞きながら、功歩空軍は勝利に震えた。
 しかし、空軍の一人が訝る声を発した。

「何だアレは?」

 森を抜ける途中で、木々がぽっかりと抜け落ちたようになくなっている。
 その広さは、二千平方メートルに及んだ。
 その手前までは木々がひしめき合い、地上にいる者には、その先が開けているとは想像も出来ないだろう。
 そこに喰鳥竜隊が躍り出た。

 美章軍の鎧だ。彼らは追っ手を気にし、逃げ惑っているように思えた。

(いや、何かおかしい!)

 功歩軍、空軍小関が異変に気づいた。
 
 美章軍の陸軍は喰鳥竜隊しかいない。
 前線に出ていた部隊が最後尾になる事はおかしくはない。しかし、前線に出ていたのは喰鳥竜隊だ。

 世界最速竜とは言わないまでも、四足竜よりは遥かに速い足を持つ喰鳥竜が、四足竜に追いつかないわけがない。
 ましてや、体の大きい四足竜は森には向かず、どうしても足が遅くなるはずだ。

 それどころか、喰鳥竜隊の前方を駆けているはずの大群の音が功歩空軍の前方からは、聞こえてこなかった。
 まるで何もいないかのように静かだ。
 その時、功歩陸軍が広場に躍り出た。
 突然開けた視界に、戸惑いを隠せない彼らだったが、逃げる美章兵を追う。

 美章兵が広場を突っ切り、森に逃げ込んだその時だ。
 激しい地震に見舞われたように、地面が揺れ、崩れる。
 ちょうど広場の中腹にさしかかっていた功歩陸軍は、足場を失い、深い穴へと転げ落ちていった。
 
 その巨大な穴は、先程までそこにあった広場全土をすっぽりと覆っていた。
 まだ森の中にあった後続軍、主に四足竜隊は、巨大な大地の口に呑み込まれる事はなかったが、狼狽しながら、ドラゴンをなだめ、穴の手前で足を止めた。
 自国軍が穴に吸い込まれた様子を目撃した空軍は、自分の目を疑い、思考が停止していた。
 そこに、悲鳴が響く。

「美章の空軍だ!」

 前方から、逃げたはずの空軍が猛スピードで迫ってきていた。
 まだ少し距離はあるものの、慌てふためいた功歩空軍小関は、叫んだ。

「た、退避! 退避!」

 空軍が本陣に真っ先に逃げ帰る中、森に残された四足竜隊は慄いた。
 美章陸軍、四足竜隊が、あろうことか、後方から地響きを響かせて迫ってきていたのだ。
 
 功歩軍は狼狽し、左右に分かれて逃げ惑った。
 美章軍は、つかず離れず功歩軍を追う。まるで森の外へと誘導するように。
 しかし、すっかり気が動転している功歩軍兵がそれに気づくことなく、左右から森を抜けた。

 功歩兵は、己の目を疑った。
 そこにいたのは、美章軍であった。
 森から抜けてきた喰鳥竜隊、三つに分かれていた四足竜隊。さらには、舞い戻ってきた空軍。

 そこで初めて、功歩軍は嵌められたのだと気がついた。
 撤退すると見せかけ、森に入った美章軍はすぐに左右に分かれ、森を抜けて、四足竜隊を分けた。一部隊は待ち伏せし、一部隊は森を迂回し、功歩軍の後ろを取った。

 そして、喰鳥竜隊は囮となり、功歩軍を引きつけ、穴まで運んだところですぐに左右に分かれ、森を出て部隊に合流する。

 さらに、空軍は万が一にでも気づかせないために、離れた要塞まで飛んで行ったと見せかけ、距離をとり舞い戻ってくる。
 そういう算段であったのだ。

「ちくしょう!」

 功歩兵は悔しさを滲ませ、雄叫びを上げながら美章軍へと突っ込んだ。

「――オオォオ!」