「では、今までの経緯を含めて、報告ものべさせていただきます。暗部の精鋭数名に調べさせていた結果、封魔書の原本は三条家にあり、幾人か暗部を送りましたが、帰還せず。封魔書の原本に書かれていたことの手掛かりとして、竜王書第三巻がそうである可能性が浮上。そこで、亮、鉄次、この二名に本格的に暗部を動かす事を任命した次第です。それが、二ヶ月前になります。そして、数週間前、私自身が赴き、本物の封魔書の入手を試みましたが、失敗。封魔書の入手は困難であると結論付けます」

「分かった。でも、監視は続けさせろ。その内チャンスがきそうな気がするからな」
「勘ですか?」
「ああ。勘だ」
 花野井は、自信に満ちた表情でにやりと笑み、月鵬も確信を持ったように笑み返した。
 花野井は次に、亮と鉄次を見据えた。
 二人は一瞬目線を交錯させ、亮が口を開いた。

「挙がってきた報告によると、竜王書第三巻は、倭和の中央管理局に保管されていたのですが、二百年前に紛失しています。そこで、俺は徹底的に調べるよう命じ、一ヶ月前に竜王機関が保管している事が分かりました」

 竜王機関と聞いて、花野井の表情が若干険しいものに変わった。
 竜王機関とは、どこの国にも在籍せず、真実の歴史のみを記す事に命をかけている秘密組織である。
 様々な国に潜り込み、内から、外から真実を追究する。
そうして十年に一度、数本発行するのが、竜王書である。

 岐附では、現在は市場に流通させる事を禁止されているが、三十年前までは認可されていた。
 他の国でも禁止されているところが多いが、今でも美章と永だけは流通を許可している。
 ただ、原本の保存は、倭和の中央管理局が受け持ち、他国が原本を所持するのは禁じられていた。

 これは、竜王機関がはじめて竜王書を発行したのが、倭和国であったことに起因している。
 その時に決められた条約が、変更されず継続されているといったところだった。

 竜王機関はあくまで歴史を記すのみだと公言しているが、やっている事は暗部と変わりがない。
 そのため、竜王機関は危険とみなされ、各国に討伐対象とされていた。ゆえに、竜王書の発行は各国で許されていないところが多いのである。
 その竜王機関の人間を、岐附は三年前に捕らえていた。

 竜王機関は、歴史が動くときに頻繁に活動を開始する。
 戦前の情勢不安な時期から動きだし、戦後の混乱期に活発化する。
 なので、戦時中、戦後に確保される事が多かったが、それでも数十年に一人、という割合で、各国の諜報員を三ヶ月に一人のペースで捕獲する岐附としては、多いとは言えない数字である。
 だが、各国でも竜王機関の人間は捕獲されることが滅多にない。
 謎が多い組織なのであった。

「ってことは、三年前に捉えたあの男を?」
「ええ。尋問いたしました」
「だが奴は、ある程度の情報しか喋らねえんだったな?」

 確認する口ぶりの花野井に、亮は静かに頷いた。

「竜王機関の人間は暗部の連中よりある意味やっかいで。暗部は捕まった時点で自害するのが鉄則ですが、連中はある程度の事は話すんですよ。そして見返りにある程度の生活権を求めてくる。今もあの男は中央軍の牢屋の中で自分の境遇やら、牢番に聞いた世間話を巻物に記してますよ」

 理解できないというように、亮は肩を小さく竦めて、
「そこで、鉄次を使いました」

「ちょっと、お姉ちゃんを使うなんて言うんじゃないわよ!」

 亮は、鉄次の突込みを無視したが、花野井と月鵬は、鉄次の身を案じた。
 それと同時に、竜王機関の人間を不憫に思う。