「あの、失礼ですけど、結婚してらしたんだから、本気だったのでは?」
彩さんは瞬時に私を睨みつけた。
そのまま、目線を外して、暫く考えるように遠い目をした。
私は気まずくて、彩さんが口を開くまでじっとしていた。
やがて、彼女は口を開いて、意外なほど穏やかな口調で語りだした。
「私が一番最後だったのよね」
「え?」
「嫁に来たの」
「ああ、そうなんですか」
私は軽く頷く。
「あの人が嫁にしたのって、中央と東の花街で働いてた女たちなのよ。私以外はね。あの人は可愛そうな遊女を引きとってたってわけ」
「え……そうなんですか?」
「そうよ」
意外だ。考えもしなかった。
それは、つまり、どういうことなんだろう?
「えっと、同情で、結婚したってことですか?」
「そうね。そうだと思うわ。バカにした話だって思う?」
「いえ……でも、あまり好い気はしないような……」
「それはね、恵まれたものの意見よ」
「え?」
「好きな人と結婚するのが当たり前なんて、自由がある者の考え方よ。それにね、女達に同情する必要は微塵もないわよ」
「……どうして?」
「彼女達はね。同情を誘って客をその気にさせるからよ。客を自分に尽かせるには、色気も必要だけど、可哀想な身の上を語るのが一番簡単で、効果的だわ。そうやって商売をするの。それを、花街から抜け出すために利用する女は多いの。私以外の妻達はね、身請けして欲しくて気を引いて、花野井と結婚したのよ」
「そんな……なんか、そんなのアニキが可哀想」
「貴女、バカなの?」
「は?」
「花野井がそんなタマなわけないでしょ? もちろんそんなの承知の上よ。あの人はね、全てを承知で五人と結婚したのよ」
「あなたは、違ったんですか?」
本気で、アニキのことを好きだったの? 他の奥さんと違って?
「違うわ。私は財産目当てだもの」
「はあ!?」
あまりにあっさりとした物言いに、私は驚きすぎて声が裏返った。