* * *
月鵬さんと鉄次さんは、あの後すぐに帰った。
私はお見送りをして、自室に戻ろうと廊下を歩いていた。その時、前から女性が歩いてきた。
見慣れない人。
キレイで真っ直ぐな黒髪に、淡い青い瞳。
真っ赤な口紅を差して、長いまつげをぱちくりと瞬かせる。背が高く、すらっとしているのに、胸もお尻も見事なものだ。
私は、一目で彼女が誰なのか分かった。
(多分、彩さんだ)
私は気まずい気分で、彼女とすれ違った。
すれ違うさいに、彼女は私を一瞥して、小さく鼻で笑った。
「なにあれ、感じ悪い!」
私は小さくぼやいて、廊下を進む。
本当に、なんであんな人を奥さんになんてしたんだろ。月鵬さんじゃないけど、アニキって趣味悪い。
(ビジュアルは文句ないのかも知れないけどさ。私なんて足元にも及ばないのかも知れないけどさ!)
私はなんだかムカムカしながら部屋へと入った。