「じゃあ、アニキは岐附に帰れないってことですか?」
「そういうことだ」

 それって、つまりは、入国証を持ってない私もどこにも行けないってことなんじゃない?

「どうしよう……。入国証って手に入らないんですか?」
「しかるべき処置を取れば再発行は可能だ。だが……」
「それが出来ないんすよね」
「ああ」
「どうしてですか?」
「俺達は不法入国をしたんすよ。どうして爛にいるのか分からないけど、入国証を持って入国したんじゃない限りは不法入国扱いっす。再発行するにはいつ爛にやってきたのか、申告しなきゃいけなくて、申告すれば、当然調べられるんす。申告しなければ再発行は行ってくれませんから、言わないわけにはいかないんす」
「そうなんだ……」
「で、俺は考えたわけよ。入国証を持ってる翼は普通に通るとして、俺は警備が手薄になる夜を待って、強行突入しようかなって」
「え?」
「俺は止めたっすよ?」
「だがよ。それしか方法はねぇだろ?」
「あるような気もするっすけどねぇ」

(なんでそんなに暢気なんだ、あんたら)
 どことなく軽いノリの2人に呆れてしまう。

「んなこと言って、お前、酒場でノリノリだったじゃねぇか。良いぞやったれ~! って」
「そりゃそうっすよ。面白そうっすもん。俺関係ないし」
「まあな。確かに面白そうだろ? 岐附に入っちまえばこっちのもんだからな」
「そうっすねぇ。国境越えちゃえばオールOKっすもんね」

 んなわけないでしょ!

「指名手配されちゃいますよ?」
「そこなんだよな」
「ええ。問題はね」

 軽く頷き合って、二人は私を見据えた。
(え? なに?)

「嬢ちゃんに会う前だったら、憲兵を全員すり潰して通ろうと思ってたんだけどよ」
「ええ、ええ」

 翼さんが深く相槌を打って頷く。

「そうすれば、目撃者もいないですから、指名手配犯になる事もないっすもんね。だけど、ゆりちゃんにそんなの見せるわけにはいかないっすからねぇ」
「そうなんだよなぁ」

 二人とも軽く言って、う~んと唸る。
(すり潰すってなに? もしかして……殺して通ろうと思ってたってこと?)
 怖くて訊けないけど、今初めて、アニキが元山賊だという感じがしたわ。

「他に手に入れる方法はないんですか? 例えば、私の入国証を作ってもらうとか。事情を説明して」
「なんて?」

 きょとんとした顔でアニキが訊き返した。

「なんて? えっと、それは、普通に、私は異世界から着たので入国証がなくって、発行して欲しいって」
「信じると思います?」

 これは翼さんだ。
 翼さんはちょっと嘲笑気味に眉を吊り上げた。
 異世界からきたって信じるかって……?
 そりゃ……。

「信じませんね……」
「でしょ?」

 私だって、異世界から着たなんて人がいたら、バカにすると思う。

「でも、じゃあ、殺されかけたって説明すれば良いんじゃないですか? それで、私が魔王だって言えば、信じてもらえるかも」

 そもそも、あの襲ってきた人達は誰なんだろう?――ふと、そんなことが過ぎったけど、今は話題を変えられそうもない。私は二人を見据える。
 二人は困ったような顔をした。