「え~っと、今は貴族じゃない……みたいな?」
「と言うと?」
「えっと……没落した……みたいな?」
「ああ、なるほどね」
(納得してくれるんだ!)
私は乾いた笑いを浮かべながら、ほっと胸をなでおろした。
「家族がいないって言っていたけど、それで花野井の世話になっているのかい?」
「え……ああ。はい、そんなところです」
「そうか。大変だっただろうね」
青嵐さんは、なにやら勘違いをしたようで、同情する目で私を見据えた。家族がいないと言っても、この世界にいないだけで、きっと今でも元気にしてるはずだ。
一人娘がいなくなって、心配や心労をかけてはいるとは思うけど、一生会えないなんて、決まったわけじゃない。
城下町に一人ででも出られるようになったら、帰る方法を絶対に探してやるんだ。
どうせ、帰るための方法を調べたいと言っても、魔王を手放すはずがない。
皇王子の政権争いの有利を少しでも維持したいがために、碧王はアニキを使って魔王を手に入れようとしたんだもん。
帰したいわけがない。
だから、皇王子が正式に王の座に就くまでは、私は自由にはなれないだろう。だけど逆に、皇王子が王の座に就いたら、私はお役ごめんで自由の身になれるはずだもん。
私が密かに決意して、ふと目の前の青嵐さんを見たら、彼はなおも不憫そうな顔をしていた。
私はなんだかおかしくなって、噴出しそうになってしまったけど、堪える。
「あの、良かったら、中庭にでも行きますか?」
「ああ。ぜひ」
私の提案に、青嵐さんは快く頷いた。
中庭に出ると、ちょうどメイドさんが歩いていたので、彼女にお茶とお菓子を頼んで、席に着いた。
メイドさんに頼んでいる最中、何故か青嵐さんは俯いて、長い髪の毛で顔を隠すようにしていた。
「あの、本当に何も盗んでないんですよね?」
さっきのような冗談交じりではなく、真剣に訊ねる。だって、すごいあやしかったし。
「ハハハッ、キミは本当に面白いね!」
青嵐さんは、お腹を抱えて笑った。
(今回のは、冗談じゃないんだけどな……)
私が顔を引きつらせながら愛想笑いをすると、彼はテーブルに風呂敷包みを広げた。中から一つ、巻物を取り出すとそれを開いた。
「これを見てくれるかい?」
巻物には色んなドラゴンが描かれていて、その横や下に、びっしりと文章が書かれている。
青嵐さんはその中の、一つの絵を指差した。
「これが、ラングルだ」
「あっ、知ってます。軍に使われることが多いとか。たしか、穏やかで人懐っこいって」
「そうなんだよ。でもね、そんなラングルの中にも、稀に気性が荒いものが生まれる事があるんだ」
「へえ……あっ、クロちゃ――友達のラングルがそんな感じらしいですよ」
「本当かい? それはぜひ会ってみたいな!」
青嵐さんは目を輝かせた。



