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ゆりへ。
もうそちらの世界へ帰ったのだろうか?
貴女がこの手紙を開くのは、いつになるのだろう? すぐなのか、十年後なのか、それは分からない。
それでも、私は筆を取らずには要られなかった。
この巻物は、鉄次にこっそりと入れてくれるように頼んだ。だから、もし咎があるなら私にある。
ゆり。
伯父上は絶対に自分では言わないだろうから、私が代わりに告げたいと思う。
伯父上は、花野井剣之助は、貴女を愛していたよ。
貴女を優しく、愛しい瞳で見るのは、私の母、柚を貴女に重ねていたわけではない。貴女に注がれていたものなんだよ。
もしかしたら、最初はそうだったのかも知れない。
伯父上の話では、ゆりと母は、どこか似ていたらしいから。だけど、伯父上の母への想いは、もう過去のものなんだ。
母の残した手紙を読んだ時点で、もう気持ちは吹っ切れたのだと言っていたよ。
それでも僅かながらに残っていた想いも、ゆりへの気持ちによって完全に無くなったんだよ。母、柚が、父、碧を愛した時のように。
伯父上が貴女を帰したのは、鈴音の件があったからだと思う。
危険な目に遭わせた事を、伯父上は後悔しているようだった。元の世界へゆりを帰した方が、安全に暮らせると思ったんだろうね。
好きな人には、自分より長く生きていて欲しいんだ。
見送る事はしたくはないんだよ。私には、その気持ちがよく分かる。
それに、貴女が魔王だから、余計に帰したかったんだろう。
兄上方と私に懇願した時の伯父上は、貴女の身の上の心配ばかりしていた。
ゆりを魔王として、兵器として発表してしまえば、確実にゆりは各国の、鈴音のような暗殺者に命やその存在を狙われる事になるからね。
もちろん、私達は貴女を守り抜くつもりだったけれど、伯父上の必死の訴えに頷くしかなかったよ。
伯父上だって元々は、そうなったとしても、守り抜く覚悟で貴女を岐附に連れてきたんだ。
でも、鈴音の件があったからね……。
私達も、貴女には世話になった。貴女が安全なところに帰る方が、確かに良い。安慈兄上は少しだけ渋ったけど、最後は折れてくれたよ。
だからね、ゆり。
不器用な伯父上の気持ちをどうか、分かって欲しい。
私が送ったブレスレットはまだ身に着けていてくれているだろうか?
赤希石は、恋人と離れてしまった女性の寿命が尽きる瞬間に、もう一度恋人に逢いたいと願い、二人を再び引き合わせたという伝説があるんだよ。
もし、伯父上に気持ちがあるのなら、そのブレスレットに願ってくれ。
きっと、魔王の力と赤希石の伝説で帰ってこれるはずだ。
私はそう、信じていたい。
皇。
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