* * *

 泣き喚いて、やっと涙が止まる頃。私はベッドの上から起き上がった。

「頭が痛い」

 痛む頭を擦って、窓を見ると、もう夕方だった。
 私は鼻を啜って、部屋を出た。
 階段を下りていると、

「お前が仕事なんかしてるから、ゆりが家出なんてしたんだ!」
「あなたが……! あなたがいつも、休日にも仕事やゴルフで家にいないから、ゆりは寂しくて家出したのかも知れないでしょ?」

「母親が帰ったらいないのが、あの子には良くなかったんだ! 俺の収入でも十分食って行けるだろ? 仕事なんか辞めろ!」

 怒鳴りあう両親の声がして、突如沈黙が流れた。

「……そうね。確かに、そうかも知れない。来月で辞めれるように、会社に話してみるわ」

 お母さんの沈んだ声が聞こえて、

「いや、俺も、なるべく休日は家にいられるようにするよ」
 と、バツが悪そうなお父さんの声音が聞こえた。

(違う! そんなんじゃない!)

 駆け込んで行きたかった。でも、私はそのまま音を立てないように、部屋へと戻った。そんなことをしたら、じゃあなんで家出をしたんだという話になる。

 そうなったら、なんて言って良いのか分からない。
 私は、夕飯に呼ばれるまで部屋でじっとしていた。
 夕飯を食べに下に下りると、両親は普段と変わりなかった。だから、私も笑顔を作った。