* * *

 本殿を出て花野井さんの屋敷に続く坂道を下っていると、私の腕である物がチカッと光った。
 それは、部屋を出るさいに、皇王子に渡された物だった。

「これはね、赤希石(せっきせき)と言って、瞑で良く取れる石なんだ。お礼代わりに受け取ってくれ。どうか、ずっと身に着けていて欲しい」

 そう言って手渡された物は、赤い大きな粒が何個もついているブレスレットだった。石の感じは、ガーネットに似てるかな。

「異性からプレゼントなんて、はじめてかも……」

 ウキウキすると同時に、思わずある人の顔が浮かんだ。私はその顔に蓋をする。

(花野井さんが、私が帰れるように方法を探したり、進言してくれていたなんて……)

 何故だか、ふと寂しさが湧いた。
 花野井さんの屋敷につくと、玄関の前に見慣れた姿があった。

「月鵬さん?」
「ゆりちゃん」

 振向いたその人は、やっぱり月鵬さんだった。
 月鵬さんは、目敏く私の腕に気づいた。

「それどうしたの?」

 驚くように言った月鵬さんの瞳は、まるでお宝を発見したように輝いていて、私は首を傾げた。

「皇王子に頂いたんですよ」
「ああ。どうりでね!」

 納得したように頷く月鵬さんは、私の手を取った。
 ブレスレットをじっくりと、なめまわすように見つめる。

「……あの?」
「ああ。ごめんなさいね」

 月鵬さんは私の不審な目に気づいて手を離した。

「これって、赤希石でしょ?」
「ああ。そう言ってましたね」
「赤希石って瞑でとれる石なんだけど、小さいものなら一万くらいで売ってるのね。加工すると、指輪とかなら、多分一万五千~二万くらいね」
「へえ~」

 割りと高い? ブランド物とか買ったことがないから良く分からない。
 自分で買うアクセサリーなんて、高くても三千円とかだもんなぁ。
 お小遣い少ないし。バイトもしてないし。

「でもね、赤希石って、粒が大きいほど、値段が上がるのよ。しかもそのブレスレット、何個もついてるでしょ? 多分、二十万くらいじゃないかしら」
「え? そんなに!」
「でも、王族からの貰いもんなら安い方よ。全然安い方ね」
「……まじですか」

 呆気に取られて呟く私に、月鵬さんは深く頷いた。
 その顔は鑑定士そのものだ。

「ところで、話は聞いたの?」
「え?」
「帰れるんでしょう?」

 知ってたんだ。
 そりゃそうか。花野井さんの右腕だもんね。

「……帰るんでしょう?」

 月鵬さんは改めて聞きなおした。
 私は、ゆっくりと頷いた。

「はい。帰ります」
「そう」

 月鵬さんは残念そうに呟いて、

「私ね、ゆりちゃんに報告があってきたのよ」

 話を切り替えるように、月鵬さんは明るく言った。

「なんですか?」
「うん。私ね、時期を見て、亮に告白するつもり」
「え?」