そこには、病床の碧王と、葎王子、安慈王子、皇王子がいた。碧王は、私を見るとベッドから起き上がった。

 私は思わず、大丈夫ですかと声をかけたくなったけど、ぐっと堪えた。碧王は、三人の王子の手を借りて、立ち上がった。

「魔王、いや、ゆりよ」
「……はい」

 私が緊張しながら返事を返すと、碧王は突然頭を下げた。

「ありがとう」
「……え?」

 碧王だけでなく、三人の王子も私に向って頭を下げる。

(なに、何事?)

「お主のおかげで、お家騒動も決着がついた」

 壁王が言って、安慈王子が心苦しそうに語った。

「本当はな、俺は担がれていただけで、そこまで本気ではなかったんだよ。父上が仰っていたように、俺は軍事に関わる方が好きだ。でも、父上にあまり相手にされていないと思い込み、母上の憎しみを語る志翔の手に乗っていたのだ。左大臣もな。俺は、彼女ほど弟を嫌いになれなかった」
「兄様」

 皇王子は、どこか嬉しそうに呟いて安慈王子の腕を軽く触り、葎王子が安慈王子の肩をぽんと叩いた。

「僕も、少しばかり思うところがあってね。研究をやめる気はないが、政務のことも少しは考えようと思うよ。安慈と共に、皇を支えて行くつもりだ」
「それじゃあ……」

 私は、はっとして王子たちを見つめた。
 葎王子が確信を持ったように、頷いた。

「ああ。皇を次の王として迎え、それを僕ら兄弟が支えるよ」
「俺は軍事から。兄上は、皇が成人するまでの目付け役としてな」

 三人は、堂々とした笑みを浮かべた。
 それを見て、碧王は心底安心した表情をした。

 私も、この三人が手を取り合って岐附のことを考えてくれれば、きっとこの国も良い方向に進んで行くと思う。

 ちなみに、一度も会うことのなかった左大臣は、志翔さんの件もあって、罷免されたらしい。
 葎王子がサポートに回るから、右大臣も関白に就いても、好き勝手には出来ないだろうとのことだ。

(それでも、私はこの国に留まらなければならないのかな、兵器として……)

 気持ちが沈みかけたとき、皇王子が明朗な声を上げた。

「だからね、ゆり。キミはもう自由だよ。キミが帰れる方法も見つかったんだ。キミは、元いた世界に、家族の下に帰れるよ」

 それは、意外な言葉で、私は一瞬、頭の中が真っ白になった。

(あんなに探し回って分からなかったのに、どうして?)

「でも、どうやって?」
「花野井がな。見つけてきたんだよ」

 安慈王子はやわらかい表情をした。

(花野井さんが?)

「数日前に、ある巻物を持ってきて、帰す方法が分かったって」

 安慈王子に続いたのは葎王子で、その後に皇王子が告げた。

「彼は私たちを前に言ったんだよ。三人が手を取り合って国を担って行く事を決めた今、本当に魔王の力は必要なのか?」

 真剣な表情で私を見据える。

「どうか、魔王を、ゆりを帰してやって欲しい――花野井はそう私達に頼んだんだよ」

 柔らかい声音で言って、私から目線を外した皇王子は、父である碧王を見た。

「父上にはもう話は通してあったみたいだけどね」

 くすっと笑った皇王子に、碧王はいたずらが成功した子供のような顔をした。

「じゃあ、私は、帰れるんですね?」

 私は呆然としながら、改めて聞き返した。その声音は自分の耳を通しても、期待に満ちていたように思う。
 私の質問は、二つ返事で返された。

「ああ。その通りだ」