そんな時期だ。
一報が届いた。
柚が死んだとする伝書だった。
眼の前がくらんだ。
死ぬとしても、俺の方が先だろう――そんなくだらない事が頭を過ぎる。
俺は伝書を読み返した。
柚が、人を殺すのを嫌がっていた柚が、軍に入った?
しかも、将軍にまでなっただと?
俺には、到底信じられねえ。
俺は、王の申し出なんて受ける気はなかった。
ただ、真実を確かめに行きたかった。
だから、俺は皇龍団を解散した。
俺がしようと考えていた事は、王室に押し入って、王に、本当の事を吐かせるという、到底まともな奴が考える事じゃなかった。そんな馬鹿に、仲間を巻き込むことは出来なかった。
愛着のわく連中でもなかったが、それでも何十人かは、気のあう仲間と呼べる者がいたし、解散すれば、皇龍団が裁かれる事はねえ。
だから、解散した。
本当は一人で行こうと思ったが、月鵬が私も行きますからね! と、すごんだんで、俺は、
「ついて来たい者だけ、ついて来い」
とだけ告げて、山を降りた。
初めて入った都は、思いのほか煌びやかだった。
薄汚れた身なりの俺らとは、住む世界が違うんだなと、ぼんやりと思ったりもした。
城に着くと、その外観になんだか気おされるような思いがしたが、横で月鵬が毅然とした態度で意気込んでたんで、俺はなんだか安心したのを覚えている。
そして、応接間で待たされている時だ。
一人の男が入ってきた。
そいつは、物腰が柔らかく、というか、吹けば飛びそうな、やわそうな男だった。そいつは、俺だけを呼んだ。
月鵬は心配そうに俺を見たが、俺は余裕で笑み返した。
元々の計画を実行するチャンスだ。
俺が案内された場所は、豪華な部屋だった。それこそ、王族が使っていそうな部屋だ。
「これを、貴方に」
男は、三つの巻物を俺によこした。
俺は不審に思いながら、それを開いた。
それは、柚の字だった。
「それは五年前に、柚が貴方に出そうとして、結局勇気が出せなかったのか、送れなかったものだ」
「……え?」
俺は、巻物にしがみつく様にして、夢中で読んだ。
その内、涙が溢れ出し、止めようと思っても止められず、男は察して部屋を出て行った。
俺は、思い切り泣いた。
涙が枯れ果てた頃、俺は夜風に当たりたくなり、窓を開けた。その時、戸を叩く音がした。
先ほどの男の後ろに、隠れるようにして幼年の男の子が立っていた。
俺が、気まぐれで、おいでと言うと、ガキは嬉しそうに笑って、俺の脚にしがみついた。
「やっぱり、血の繋がりが分かるのかな」
男は優しげに呟いて、にこりと笑った。
「血の繋がり?」
「その子、皇は、柚と私の子供だ。貴方の、甥っ子になる」
俺は、戸惑いながら皇を見た。
皇は俺を見上げて、何が楽しいのか、キャハハと声を上げて笑った。
その姿が、柚と重なる。
俺は泣き出しそうになるのを堪えて、皇を抱き上げた。
「おおしっ! 伯父さんと遊ぶか?」
「うん!」
皇は俺に抱きついた。
その小さな手と、小さな体を、俺は守りたいと思った。
そして、この長年の呪縛のような想いから、解放させてくれたこの男のために、俺は将軍になる事を受け入れた。
俺は柚が愛したこの男と、皇のために出来る限りの事をしようと思う――。