柚様は、カシラの死を疑い、剣之助様に訊ねた。
彼は肝心なところで嘘はつかない男だった。彼女に尋ねられるままに、頷いた。そして柚様は、一滴だけ涙を流し、その日のうちに姿を消した。
後から知った事だったが、彼女も剣之助様も、誰かの命を奪う事を嫌っていた。だが、自分のために兄が三百人の盗賊を殺した。
それを知った時、彼女は悲しみにくれ、剣之助様は、二度と人を殺さないと誓ったのだ。
私はその誓いを、破らせてしまった。
そのせいで、柚様は、剣之助様の許を去り、あんなにも慈しみ合っていた二人を引き離してしまった。
私を救い出してくれた人達を、私が傷つけてしまった。
私の罪は重い。
私は、生涯、彼のために生きて行こう。
それが、私の償いだ。私はそう固く決意したのだ。
それから、十三年が過ぎた。
カシラが死んで、新しい頭領に就いたのは、剣之助様だった。以降私は、彼をカシラと呼び、様々な仕事をした。
中でも、宝の巻物を解読するのに勉強をした事が、一番楽しかったし、性に合っていた。カシラに頼りにされていると一番実感できるのも、このときだった。
だけど、彼はあの日から、私に肝心な事は言わなくなった。
それが、物悲しく私の心を覆った。
カシラは、柚様がいなくなってから変わった。
お酒を飲むようになり、女遊びをするようになった。
純粋で、純朴だった少年の面影はないに等しい。
当時、彼のその姿を見るたびに、罪悪感がふつふつと湧いたものだったけど、さすがに十三年も経てば、呆れが先に立つようになった。
カシラ自身も、女とのやり取りを楽しんでいる節もあったし。私はそれなりに、日々を楽しく生きていた。
そこに、中央軍の使者から文が届いた。
それは、柚様の死を知らせる文だった。
柚様は、軍に入隊し、十三年の間に将軍にまでなっていた。その柚様が、戦死したという知らせだった。
彼女の消息を掴めずにいた……正確には、掴もうとしなかった私達は、この事実に心底驚いた。
そして、その文には続きがあった。
当時、山賊として荒らしまくっていたこの山賊団――皇龍団(こうりゅうだん)は、軍本部に敵対視されるほどの、危険組織となっていた。
ただ、一般市民を殺すようなことはなく、奪うのは物のみで、軍とやりあう事は何度かあったが、その度に追い返していた。
その実力もあってか、それとも、柚様の兄がカシラを勤める男だと知ったからなのか、カシラを、将軍として迎え入れたいという申し出だった。
そして、カシラは決断を下した。
山賊、皇龍団を解散。
ついてきたい者だけ、ついて来い。
そうして、私と数十人の部下が、カシラについて附都を訪れた――。



