* * *

 アニキに蹴られて、隣の部屋で呻き声を上げる彼女は、やっぱり私が思ったとおり、志翔さんだった。
 そして、志翔さんに殺されそうになっていたのは、皇王子だ。
 皇王子は、まだ心臓の早鐘が治まらないらしく、胸を押さえて呆然としていた。
 そこに遅れて、廉璃さんがやってきた。
 更に数分遅れて、

「何の騒ぎだ!」

 雷鳴のような声を轟かせながら、安慈王子と、

「どうしたんだ?」

 怪訝な声音で葎王子が部屋に駆けて来た。
 そして使用人達が、何事かと集まってきた。部屋の異様さに気づき騒然となりかけたとき、安慈王子が、隣の部屋に横たわっている志翔さんに気づいた。

「志翔? どうして?」

 困惑する安慈王子に向って、志翔さんは顔を上げた。
 苦しそうに息をし、申し訳なさそうに顔を歪める。

「その人が黒幕だからよ」

 突如響いた冷静な声に、みんなが声の出所を探す。その人物は、野次馬を掻き分けて顔を覗かせた。月鵬さんだった。
 後ろには、鉄次さんと亮さんもいる。

「黒幕とは、どういうことだ?」

 訝る安慈王子に、月鵬さんは告げた。

「今回の鈴音による、花野井将軍暗殺未遂の本当の目的は、皇王子の暗殺だったのです」
「なに!?」

 一同が驚いて、皇王子とアニキを見つめる。
 私も、夢で直感しただけで、真相は全然知らない。
 だから、私も同じように二人を見比べ、そして志翔さんを見据えた。

「計画はこうです。午前二時頃、ゆりちゃんを襲い拉致監禁。午前三時頃、花野井将軍をゆりちゃんを使って脅し、自殺するように仕向ける。それで彼が死ねば万々歳。しかし、能力ゆえに死なない可能性も大きい。彼は、即死やよほど深い傷でない限り死にません。それは周知されていることですから、死なない可能性は簡単に推測できます。そして、計画通り鈴音は捕まり、ゆりちゃんの身を案じた将軍は、廉璃を護衛につける。それこそが、彼女の目的です」

 私は廉璃さんを見た。

 廉璃さんは視線を一心に受けて、緊張したように顔をこわばらせた。
 そういえば、私、廉璃さんをどこかで見たような気がする。どこか、遠くで……。

(あっ! そうだ。あの時の!)