* * *

 心臓がバクバクする。
 息を切らしながら、私は扉を押し開けた。
 その瞬間、真っ暗闇な部屋に、強い光が走る。
 轟音が轟き、ステンドグラスの窓を横にしながら、二人の人物が見えた。
 ベッドの上の少年。
 その少年に走り迫る影。
 その手には、雷光に反射する、ギラリと光る刃物。

「何をする!?」

 悲鳴が上がり、私は駆け出した。

「あんな女の子供など!」

 ヒステリックに叫びながら、少年に翳されるナイフ。
 少年は強く瞳を閉じた。

(――間に合わない!)

 必死に伸ばした手は、到底届きそうにない。
 私は、喉が潰れそうなほど叫んだ。

「ダメ! やめてぇ!」
 
 その時、ガラスの割れる音が辺りに響いた。
 窓ガラスが激しく飛び散り、私の目はある人物を捕らえた。
 ガラスを蹴破り、雷光を背に、白い髪が揺れる。
 空中で体勢を整え、そのまま、彼は少年を殺そうとする者に蹴りを食らわせた。
 蹴られた者は、まるで何かに引っ張られるように、勢い良く壁に激突し、そのまま壁を突き破って、隣の部屋でうめき声を上げた。

「無事か?」

 白髪の男は、心配そうな声音を少年に向けた。
 少年は、こくんと頷いた。
 私は呆然としたまま立ちすくむ。
 そんな私に、彼は優しい眼差しを向けて近づき、頭の上に手を置いた。

「嬢ちゃんも、無事だな?」

 優しい声音を聞いた途端、緊張の糸がちぎれ、私は何故だか泣き出してしまった。
 アニキの優しい瞳は、私を泣き虫に変えるらしい。