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下山が完了したのは、それから二時間程してからだった。
ゆりはほっと息をつき、辺りを見回した。
山の麓にはあぜ道が広がり、その先に、数件の農家らしき家々が点々としていた。
家のつくりは、遠目からでも、石やレンガで出来ているのが分かる。
「西洋風だ」
ゆりはぽつりと呟いて、のどかな風景を見回すと、ふとセシルの首筋が目に入った。
セシルの首筋は、驚くほどに白い。まるで雪のようだなとゆりは思い、他の竜狩師を見ると、マントの隙間からちらちらと白い肌が覗いていた。
日焼けをしていない場所は、透き通るように白いのだ。
そこでもまた、ゆりは月鵬を思い返した。
彼女もまた、白く美しい肌に、綺麗な緑の瞳、輝く金の髪を持っていた。
もしかして、同じ故郷の者なのかも知れない。だとしたら、ここは岐附だろうか?
「セシルさん」
「何?」
セシルはゆりの声に、振向かずに答えた。
「ここって、岐附ですか?」
「……はあ!?」
セシルは呆気にとられたように振り返った。
「えっと、あれ? 違いますか?」
「何をもってして岐附だなんて思ったの? ここは、功歩よ。功歩のツェバル村よ」
何を言い出すのかと、セシルは目を丸くして前へ向き直った。
「岐附は建物から何から違うって聞いたわ。私達は殆どがこういう容姿だけど、中には肌の色から、髪の色まで違う人もいるの。すごく少ないけどね。でも、この村にも数人はいるわよ。岐附では私達みたいな容姿の方が珍しいらしいけど……そういえば、あなた達も見ない感じよね」
「え、ああ、うん」
セシルは閃いたように振り返ったが、ゆりはぼんやりと返事を返した。
セシルは不思議そうに小首を傾げながら向き直る。
ゆりは、功歩という言葉に動揺していた。
功歩といえば、月鵬達から聞いた話によって、戦争好きの乱暴者というイメージがあったからだ。
(怖いところに来ちゃったのかも。でも、功歩の人って、本当にそんなに乱暴ものなのかな?)
セシル達の親切さを思えば、到底乱暴者のようには思えなかったのだ。
ゆりは疑問を抱えたまま、村の中心へと入っていった。
村は、石造りとレンガ造りの家ばかりで、中世のヨーロッパの村へタイムスリップをしたような雰囲気だった。
「うわぁ。すご~い! ステキ!」
「ゆりは褒め上手なのね。普通の田舎の村よ。そんなにステキでもないわ」
セシルは謙遜したように言って、微苦笑した。
「そんな事ないですよ。ステキです。私一回、こういうところ行ってみたかったんですよねぇ」
しみじみとゆりが頷くと、セシルは含んだように笑った。
「ねえ、今晩泊まる所がないなら家に泊まらない? 今日中に出て行くのだったら、止めないけど……残念だけどね」
「あ、そうですね……」
返事に迷って、ゆりは雪村と結に声をかけた。
「ねえ! 雪村くん、結! セシルさんが今日泊めてくれるって言うんだけど、どう?」
「マジで!? ありがとうセシル! 助かる!」
「いいえ」
雪村は明るく笑って手を振り、セシルがそれに微笑して小さく手を振って応えた。だが、もう一人、話を振られた結は、口を若干尖らせて押し黙っていた。
ゆりは、結の様子が少し気になったが、声をかけることなく向き直った。



