* * *
その日は交代で仮眠を取り、朝を迎えた。
太陽が顔を出した時刻に、結は狩に出かけ、日が完全に地平線から出た頃に戻ってきた。
「とってきた」
自信満々にゆりに差し出されたものは、ネズミによく似た生物だった。
違う点は、体毛の色と大きさくらいだろう。
体毛は派手な黄色の原色で、全長五十センチはある。
ゆりは引きつった顔で、ネズミの死骸を受け取った。
(これ、食べるの?)
ゆりは思わず口に出しそうになったが、ぐっと堪えた。
せっかく獲ってきてくれたものだし、昨日から何も口にしていない、文句を言うのも筋違いというものだ。
「サバけるか?」
「さば……けません」
「そうか。じゃあ、ワタシがやる。ゆんちゃんは水くみに行ってくれ。向こうにある」
結は振り返って森の奥を指を指した。ゆりは、小さく手を上げる。結は、ゆりの事をゆんちゃんと呼んだ。何度、ゆりだと言っても、何故かゆんになるので、もうそれで行くことにした。
どうやら、結は、ゆりと言っているつもりらしいし、アダナのようで、仲良くなれた感じがして、ゆりはそれはそれで嬉しいのだ。
「はい。了解」
了承したゆりに一瞥くれることなく、結はナイフとドラゴンの皮で出来た水筒をマントの中から取り出して、水筒をゆりに向って投げた。
ゆりはそれを受け取って、結がネズミにナイフを向けるのを見ると、逃げるようにそそくさとその場を立ち去った。
暫く行くと、川へと続く緩やかな傾斜があった。
傾斜を下る途中で、昨日の出来事がふと過ぎったのか、ゆりは足首を一瞥した。
足首の痛みはもうなかった。それどころか、体中に出来た擦り傷も消えてしまっている。おそらくは、魔王の力によるものだろう。
「便利だけど、なんか不気味だな……」
一抹の不安がぽつりと口から零れて、ゆりは振り払うように小さくかぶりを振ると、再び歩き出した。



