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「どうやら祖は、やっと彼女に逢えたみたいですよ。初代竜機長」

 ふふっと微笑(え)んだ柳の瞳に薄っすらと涙が滲む。柳はそれを指で拭うと、何事もなかったかのように元の、快活で、どことなく得体の知れない表情に戻った。

「……ふむ。やっぱりこの報告は追記にしよう。先に、あっちを書くかな」
 
 楽しみを取っておくように独り言ちて、柳は巻物に筆を置いた。


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 北丁(ほくちょう)六五〇年。

 千葉(センヨウ)、首都安土にて、三条雪村、魔王復活せしめる。
 魔竜を操りし、三条一族――当主、三条雪村により、安土の地は甚大なる被害が及ぼされた。
 死者、千。
 負傷者、三千。
 いづれも安土兵であり、市民に被害なし。
 三条雪村、安土にて落命す。毛利影也が誅す。
 魔王、聖女によりて浄化を遂げる。
 共感作用にて魔竜内の魔王も浄化、魔竜幽明境を隔つ。
 詳録は、別巻にて記載せり。


               ――竜王書簡・柳。




                  (了)