ほとんど無意識のうちに漏れた独り言だった。

けれど彼はまた、わざわざ振り返ってくれて。




「……褒め言葉?」

「っ、はい」

「なら、ありがたく受け取っとく」




そう言って笑った彼を見て、胸が鳴る。作り物みたいに綺麗な顔が無邪気に歪められるのは、とても……同じ人間とは思えないくらい。




「お前、名前は?」

「……紗菜(さな)

「上の名前は?」

「…………」




私が黙っていると、「言いたくないなら、無理しなくていいけど」と言ってくれる彼は、やっぱりきっと優しい。




「俺は和泉凛太郎(りんたろう)

「……名前までかっこいーんだ」




ずるいなあ、という、どうでもいい本音まで漏れそうになって、慌てて口を閉じる。

彼もきっと、どうでもいいことなんて聞きたくないタイプだろうから。




「“名前まで”ね…。紗菜は俺のどこを、カッコいいと思ってたんだよ」

「え……え……!?」




ほぼ独り言だったことを聞かれて、さらには予想外の質問までされてしまい、戸惑いを隠せない。