「わー、凛太郎にもついに春が……」
「変な勘違いしてんじゃねえよ。早く診ろ」
「へいへーい」
ちょっとめんどくさそうに、救急箱らしきものを抱えて近付いてくるチャラ男、朧さん。
茶髪、なんかオシャレな髪型、なんかカッコよさそうなピアス。
何度も思うけどチャラい。見た目からなにからチャラい。
「ねーねー、名前は?」
手先を器用に動かしながらも、変わらない軽い口調で止まっていた空気に動きを与える朧さん。きっと話すのが上手なんだろうな、と思った。
「……紗菜、」
「サナちゃんかー。あ、そーだ連絡先交換しない?」
どこまでもフットワークが軽い朧さんは、そんな提案をしてきた。
でも、そんなの交換したって、使うことはないと思う。
凛太郎にも“今日だけの付き合い”って言われちゃったし。
「……や、たぶんもう……ないので」



