「驚きすぎ」
「なっ……だって……」
“あんなこと言われたら”
そう言おうとして、言葉を飲み込んだ。
「……クソ。さっきの奴らの仲間か」
「え?」
「追われてる。走るぞ」
そう言って、和泉さんは私に有無を言わせぬまま、私の手を取り走りだした。
掴まれた手が熱くて、私は緊張していた。
男の人と手を繋ぐなんて、いつぶりだろう。ううん、男の“人”と手を繋ぐなんてこと、お父さんやおじいちゃん以外と手を繋ぐとき以外なかった。
だけど今の相手は……と顔を上げたところで、再び息を飲んだ。
今、私と肌が触れているのは、絶世の美男子。
……ドキドキしない、わけがない。
しかも、手を引いて走ってるくせに、チラチラ振り向いて私を気にしてくれるところ。息が切れてきた頃には、少しスピードダウンしてくれるところ。
優しさが、彼の行動に散りばめられていて、またドキッとしたまま、私と彼は闇に溶けていった───。



