言い返したかった。男を誑かすなんて、私はそんなことしてないって。別に彼と仲良くなんかしてないし、言い寄ったりなんかしてない。

 噛み付いてやりたかった。どうせあんただって、あの女に誑かされた1人のくせにって。誑かされる方だってみっともないじゃない。

 喉の奥から溢れそうになる言葉は、絶対に空気に乗せられないものばかりだった。放ったパワーの何倍もの力で、憎しみと怒りを込めて跳ね返ってくることはわかってる。


 憎いと思う。だけどその端っこで、少しだけ哀れみの念を抱いたりもする。数年経ってもふつふつと沸くような憎しみを抱き続けている、それはきっと、負った傷がよほど深かったからだろう。
膿んでしまった傷口のように、時を重ねるごとに痛みを増しているのかもしれない。いつか読んだファンタジー小説のように、月日を経れば経るほど、呪いは深さを増すのかもしれない。


 同情なんて絶対にしないけれど。悪魔は今も尚、あの(ひと)の呪縛に苦しめられているんだろう。

 そして、私もまた、真っ暗闇の中だ。