「十紀和のお父さんって、もしかして役所勤め?」


 2時間目の授業が終わった後、突然そんな声が背後から飛んできた。びくりと肩が跳ねたのは、あいも変わらず突拍子もなく話しかけられたからか、それとも。


「……そうだけど」


 ゆっくりと振り返って努めて冷静に肯定してやると、彼はやっぱりと納得したように肯いた。


「引っ越しの手続きした時、十紀和と同じ名前の男の人に対応してもらったこと思い出してさ。もしかしたらって」

「……そう」


 いつもは絶えない彼の周りの人間は、彼が私と話していると寄ってこないらしい。私と話すことにデメリットこそあれどメリットなんてないはずなのに、それでも彼は私の扉を叩くのを止めない。


「名字同じってだけで繋がるからすごいよね。最近やっとわかってきたよ、この町のこと」

「窮屈な町でしょ」

「まぁ、自由は少ないのかなって思うけど。嫌いじゃないよ、ここ」


 十紀和は嫌いだろうけどね、と、この男はいよいよ遠慮がない。


「……嫌いとか言ってないし」

「あれ、そうだっけ? じゃあ好き?」


 机に頬杖をついて、彼は不敵な笑みを浮かべている。まるで、私を挑発するかのように。