「おはよう」


 口にしたのはいつぶりだろう。考えてみても全く思い出せない四文字に、辺りがざわついた。


「今の、中津さんかや!?」

「挨拶しちょーの、初めて聞いたわ!」

「だけん、なんで急に!?」


 私だけを取り残して、……ううん、私達だけを取り残して、ギャラリーが騒ぎ出す。

 煩いな。だから嫌いなんだ。この町も、この町に住む人も。これからも絶対、好きになんてなれない。


 辟易としながら、それでも少しの満足感を感じながら、ヒソヒソと話し続けるクラスメート達を横目に椅子を引く。視界の端では、彼が満足そうに笑っていた。