家に帰ると、悪魔は既に帰宅していた。車で通勤している父親は、定時で帰るとかなり早い帰宅になる。

慎重に扉を開け閉めして、家の中に入った。すると、ちょうど洗面所から出てきた父親とかち合ってしまう。


「……ただいま」

「あぁ」


おかしいよなぁ。ついになる言葉は「おかえり」のはずなんだけど。心の中で皮肉たっぷりに唱える。もちろん、口になんて出せるはずもないけれど。


「……転校生が来ただろ、男の」


手洗いうがいをしようと洗面所に足を踏み入れた時、すれ違いざまに低い声が響いた。

どきりとして、せめて声が震えないように冷静を装う。“男”というワードがこの男の口から出てくると、どうも身構えてしまうのだ。


「この間、平井さんのとこの奥さんと役場に手続きに来ちょったけん。銀髪で、チャラチャラしたやつだったな」

「……え」

「なんや。お前も興味あるかや、東京から来た青二才に」

「別に、そんなんじゃ」


別に興味なんてない。平井さんと役場を訪れた彼の苗字が城田だろうと、私には関係ないし。各家庭、色んな事情があるのは私が一番わかってるし。何より、私が一番嫌いな詮索をするようなマネ、絶対にしない。