「あ、あのね。カラオケ代だけど」

「払わずに逃げてったな」


 そのとおり、です。

 誘ったのはわたしなのに。


 でも。


 ……逃げたくなるようなことしたのは、桝田くんの方で。


 聞か、なきゃ。

 なんで。

 あんなことしてきたのか。


 ごめん、の。……意味を。


「カラオケ代、いくらだった?」

「イラナイ」

「え?……でも」


 あの賭けは、わたしが90点以上とれるかどうかで勝ち負けを判断した。


「払うよ」

「カネねえのにか」

「だって。74点、だったし」


 一瞬の沈黙のあと

 桝田くんが、ブハッと噴き出した。


「な、なによ!?」

「……俺。当分このネタで笑えるわ」


 思い出し笑い、しないでよ。 


「ネタにするな」


 人が気分よく歌ったのにさ。


「見ろ」


 携帯画面を向けられる。

 そこにうつるのは、採点結果の表示されたモニター。


「撮ったの!?」

「楽しかった」