「はい」


舞香が、スタンガンを差し出す。


「優子もやんなよ」と。


「でも__」


「やられた分、やり返さなきゃ。何倍、何十倍にして」


さも当然と言わんばかりの舞香に、スタンガンを押しつけられた。


いや、無理だ。


いくらなんでも、無抵抗の人間にスタンガンを押しつけるなんてこと、私にはできない。どれたけいじめられていたとしても、私には__。


「や、やめてっ」


その時、安奈が顔を上げた。


顔は真っ青で目にくまができ、別人に見えるくらいやつれているあの女王様が、私に頼んでいる。


私のことを、恐れている。


あんなに私のことをいじめたのに?


私だって、何度いまの安奈と同じことを言った?


それなのに安奈は、笑って拒否ったじゃないか。


泣いて助けを求めたのに__。


ばしん。


安奈の体が反り返って痙攣した。


けれどすぐ我に返り、スタンガンを放り投げる。


「それでいいんだよ、優子。怒って当然。苦しみも悲しみも、怒りだって私たちは共有し合わなきゃね」


にっこり笑ってスタンガンを拾った舞香は、予め用意するしてあったバケツを手に取り、中の汚水を思いっきり安奈にぶちまけた。