安奈のいじめは、巧妙で狡猾である意味、天才的だった。
いじめ慣れている。
1度もいじめられた側に立ったことがないから容赦がない。
どれだけ落書きを消しても、翌朝にはまた机は汚く黒く染まられていた。机そのものが無くなることはなく、担任の島谷が気づくことはない。
靴、制服、鞄はずたずたにされ、教科書はもう読めない。
でも、まだこんなのは序の口だ。
それでも舞香がそばに居てくれるだけで、なんとか乗り越えられる。
ただ、彩音は自分の椅子から動かない。
それは仕方ない。彩音は、いじめがどれだけ恐ろしいものか、身をもって知っているから。本当は心配しているはずだけど、怖いんだ__。
「ひっ!」
お弁当箱を開けた私は、悲鳴を上げて椅子から転げ落ちた。
弁当箱の中から、虫という虫がわさわさと湧き出てくる。
「もう我慢できない!」
急に立ち上がった舞香は、私が止める隙もなく安奈のもとに向かう。
「いい加減にしたら⁉︎」
「なによ急に。私がなにをしたって言うの?」
「みんな知ってるじゃない!優子はなにも悪いことしてない!」
「そう?嘘つきだと思うけど?」
「嘘つきはあんたでしょ?そんなんだから向井くんに振り向いてもらえないのよ。優子が向井くんと付き合ってるからいじめなんて、ガキじゃないの!」