「おはよう、優子」


私が教室に入ると、舞香と彩音が迎えてくれた。


転校してきて半月が過ぎ、舞香もすっかりクラスに馴染んでいる。


安奈は未だ、向井くん絡みで目の敵にしている女子をいたぶっており、こっちには無関心だ。このまま、何事もなく過ごせるといいけど__。


「じゃーん」


そう言って舞香が取り出したのは、あの時のカバンだった。


「買ったの?」


「うん。また使ってみたかったら言ってね。2人とならいつでもシェアするから」


なんだかそう言われると、自分たちだけ特別な気がしてくる。


彩音と顔を見合わせて微笑んでいると、教室の空気が変わった。


「あっ、向井くんだ」と彩音が言った。


バスケットボールを指先でクルクルと回す達実が、ちらっと私のほうを見る。


その視線の意味に気づいているのは、この私だけ。


みんなの憧れである向井達実を、独り占めしているんだ。安奈がどれだけ欲しがっても、達実は私にキスをする。安奈なんて、相手にするわけがない。


心の中でほくそ笑んでいると__。


「きゃっ‼︎」


舞香が短い悲鳴を上げた。


バスケットボールが飛んできたからだ。


ぶつけ合ってふざけていたからだろう、慌てて達実がやってくる。


「悪い、大丈夫?」